生活に困り、食べるものすらない貧困は、日本ではほとんどないことのように思っている人が多いのではないだろうか。だが、新型コロナウイルスの流行拡大をきっかけに、それは幻想に過ぎないことがわかってきた。営業中止、倒産などでアルバイトや仕事を打ち切られた人、体調不良で働けなくなった人など、困窮している人たちがたくさんいるという現実が明らかになっている。こうした生活困窮者に対し、一般の人や企業から提供してもらった食料品を配布するのが、全国に広まっている「フードバンク」の活動だ。仙台市で活動しているNPO法人「フードバンク仙台」もその一つ。東急リバブル東北支店はこの活動に賛同、フードバンクに食料を提供する「フードドライブ」活動を積極的に行っている。また日本では、日々の食事に困っている人がいる一方で、まだ食べられるのに廃棄される食料(フードロス)が大量に発生しているという現実もある。フードドライブの活動は、同時にフードロスの削減にもつながっている。
困窮者に食料支援だけでなく生活相談も
フードバンク仙台は、新型コロナウイルスの流行拡大の中で、困窮する労働者世帯を支援しようと2020年5月に結成された。事務局を務めるフードバンク仙台理事の川久保尭弘さんは、「仙台の場合、2011年に東日本大震災の被害を受けています。それから10年以上がたち、表面上は復興しているように見えますが、当時の生活再建のための借金が返せず、コロナ禍でさらに困っているという方、今も体調不良をかかえている方もいます」としたうえで、「それに加えて、日本社会に広がっている貧困は仙台でも大きな問題となっています。社会全体としてコロナ禍は一段落したかのようになっていますが、その影響は今も大きいですし、最近では食料品や燃料などの物価が高騰し、より貧困は拡大していると感じます」と語る。
フードバンク仙台では、2022年度1年間で延べ3069世帯(延べ6474人)に13万5954食の食料支援を行った。フードバンク仙台の調査によると、こうした支援を受けた困窮者の1か月の収入を見ると、「無収入」が20%、「5万円未満」が9%、「5万円以上10万円未満」が28%で、6割近い世帯が月10万円未満の収入だった。世帯人数を考えると、生活保護水準以下の収入しかない世帯は全体の7割にのぼったという。世帯構成をみると1人親世帯が13%あり、シングルマザーやシングルファーザーの家庭で生活苦が広がっていることがうかがえる。また、国籍で見ると、外国人の割合が11%もあり、仙台市に住んでいる多くの留学生や移民たちも困窮しているという現実も見えてきた。外国籍の人の場合、国や自治体の福祉制度が適用されない場合もある。
川久保さんによると、新たに貧困に陥るようになった人が次から次と現れ、生活困窮者はなかなか減ることはないという。「フードバンク仙台が食料支援を行っている年間約3000世帯のうち、約3分の1は新たに支援を求めてきた人です。この数字は、私たちが活動を始めてからほとんど変わっていません。つまり、新たに貧困に陥る人が常にいるということです。そしてこれは氷山の一角に過ぎない、と私たちは考えています。本当は苦しいのに、どこに相談してよいかわからない人たちが相当数いるはずです」と川久保さんは言う。
フードバンク仙台では、住む場所がなかったり、あっても水道や電気などの料金が払えずに止められたりした人などの生活を立て直すことができるよう、食料支援だけでなく、生活相談にも力を入れている。川久保さんは、「日本の福祉制度がきちんと機能していれば、こうした貧困は広がらないはずです。制度が脆弱なため、生活に困った人は借金をするしかなくなってしまう。すると借金を返すことに追われてさらに生活が苦しくなってしまいます。また、行政の制度だけでは解決が難しい問題もあります。たとえば生活困窮で家を失いネットカフェ暮らしをしている人は、家を借りたくても保証人をみつけることができない場合がほとんどです。私たちは、そうした人にも良心的な不動産会社と連携して、あらゆる生活サポートをするように努力しています。ただ、支援が必要な方全員になかなか手が届いていない面があって、心苦しく思っています」。そして川久保さんは、「SDGsの17の目標のうち、第1の項目は『貧困をなくそう』、第2の項目は『飢餓をゼロに』です。日本国内には飢餓はないと思われがちですが、ここ仙台でも現実に、11日間食事していません、2週間水しか飲んでいません、という方がいらっしゃいました。これは特殊ケースではないのです」と訴えている。
社会貢献で地域に親しまれる会社に
東急リバブル東北支店は、こうしたフードバンク仙台の活動に賛同し、2021年6月から食料を集めてフードバンクに提供するフードドライブの取り組みを始めた。木村考支店長は「我々の営業活動は地域の人に受け入れられて成り立っているので、地域の人に愛されることが重要だと考え、何か地域に貢献できることはないか、と社内で意見を募集しました。すると、アルバイトの一人からフードバンクの取り組みについて話がありました。これなら営業活動をする中でできるのでは、とまず社員が自らやってみることになりました」と話す。ただ、社員が自宅で余ったものを持ち寄るだけでは限界があり、継続的に食料を提供していくことが難しい。そこで2021年10月に仙台市と業務提携を結び、社内にとどまらず、外部にも呼びかけて食料を集めるようになった。「テニス大会やコンサート、プロ野球楽天関係のイベントなど、東急リバブルや東急グループ関連のイベントを開催する際に、お客さまに余分な食料を持ってきてもらうよう広く告知することを始めました。また、各店舗の窓口でも日常的に食料提供を受け付けるようにしました」と木村さん。
東急リバブル泉中央センターのセンター長、千葉幹宏さんは、「何か社会貢献したくても、ボランティアや寄付は取り組むきっかけがなかなか無いし、かといって何をやれば良いのか分からないという方はたくさんいらっしゃいます。私たち東急リバブルが、そうした一般の方とフードバンクとの間に入ることで、より多くの人にフードバンクの活動を知ってもらい、共感してくれる人が参加しやすい形を作りたい。そうした思いで取り組んでいます」と語る。活動を続けている中で、顧客との関係性も強くなり、「新米ができる季節にはお米を必ず持ってきてくれる人など、繰り返し参加してくれる人が少しずつ増えています」。関係企業や取引先にも声をかけ、「備蓄品の切り替え時や社員に働きかけて持ってきてくれる会社など、共感してくれる企業も着実に増えています。会社の文化として今後も継続し、支援の輪を広げていくことが大切だと考えています」と千葉さんは話している。
木村支店長によると、イベント参加者へのアンケートでは40%の人が、東急リバブルが積極的にフードドライブ活動を行っていると認知しているという。「社内では、社会貢献に参加しているということで社員の意識向上に大いに役立っています。社外においては、地域貢献している会社としてイメージアップすることにもつながっています。これからも息長く活動を続け、多くの人や企業に活動を知ってもらい、参加してもらえるようにしていきたい」と木村支店長は話している。
日々の食べる物がなくて困っている人がいる一方で、日本では、食べられるのに廃棄される食料が大量に出ている。2023年に農林水産省が発表した2021年度の推計では国内のフードロス量は年間523万トンにも達している。消費者庁によると、日本のフードロスの量は、世界中で飢餓に苦しむ人に向けた世界の食料支援量(2021年で年間約440万トン)の1・2倍にも相当するという。つまり日本では、世界全体の食料支援量よりも多くの食料を毎年捨てていることになる。「このフードロスを少しでも減らし、その分を食料支援にまわすことができたら、生活困窮者にとってどれだけ助かることか」と川久保さんは語る。
私たちの身の回りでも、余っている食料品や食材がいつのまにか賞味期限を過ぎるなどして廃棄することはよくあることかもしれない。ふだんから使い切れない食料品や食材はなるべく廃棄せず、フードドライブに協力するよう、意識を高めていく必要がありそうだ。
木村支店長も「困っている人たちに食料を届けるというフードバンクやフードドライブの活動をよく知ってもらうことが大切。活動への理解が広まると、社会全体の意識も上がってくるのではないでしょうか。私たちがフードドライブ活動と啓発を今後も息長く続けていくことで、生活困窮者をなくし、フードロスを減らすことにつながっていってほしい」と話している。