東急不動産ホールディングスが行う環境取り組みを詳しくご紹介
GREEN PIONEER NEWS

埼玉県東松山市の「ソーラーシェア」が農業の未来を明るく照らす

  • # 循環型社会
  • # ソーラーシェア
ソーラーシェア

太陽光発電というと、建物の屋根以外では、平坦な土地に多数のソーラーパネルを並べるのが一般的。そうすると土地はパネルでいっぱいになり、他に使うことができない。そうではなく、パネルを高い位置に設置して下の土地を農地として活用、発電と農業生産を両立させようというのが、「ソーラーシェア」と呼ばれる試みだ。東急不動産は、通信や電気事業、発電、環境施設などを手掛けるエクシオグループと共同で、「リエネソーラーファーム東松山」を埼玉県東松山市に建設、2022年春からソーラーシェアの実証実験を開始した。平坦な土地が少ない日本では、太陽光発電に適した土地は限られているが、都市部近郊の平地には多くの農地がある。農業を続けながら発電事業に取り組むことで、太陽光発電の可能性が広がることに加え、後継者不足が深刻な農業を活性化することにも期待がかかっている。

太陽光発電と農業を両立させる実証実験

「食料とエネルギーの自給率が低いことが、日本の大きな社会課題です。農業をしながら再生可能エネルギーを作り出すソーラーシェアは、その両方を大きく改善させる可能性があります」。こう力説するのは、東急不動産戦略事業ユニットで、再エネ新領域企画グループ兼リエネ事業推進グループ課長補佐の熊澤圭悟さん。「太陽光発電はこれまで、地域に関係なく進められてきましたが、できれば多くの電力需要がある地域、すなわち都市部近郊で発電に取り組みたい。そのためには、農地の活用が不可欠です。太陽光発電に適した土地は限られており、その意味でも農地の開発には、大きな可能性があります。日本には400万ヘクタールの農地があります。そのうち耕作放棄地は約10%あるといわれており、今後も増えていくと予想されています。営農型太陽光発電事業と合わせて耕作を維持できれば、農業やエネルギーにおける社会課題解決の糸口になります」と熊澤さんは熱を込める。

水田の上に設置されたソーラーパネル

水田の上に設置されたソーラーパネル

ソーラーシェアは、農家にとってもメリットがある。熊澤さんは、「今、農業に従事している人は、70代、80代の方が多くなり、高齢化が大きな問題となっています。そしてその子供たちは農業から離れ、後継者がいないために辞めてしまう農家が、これからますます増えてきます。各自治体でも、荒れたまま放置された農地の問題に頭を抱えています。ソーラーシェアが普及すれば、そうした状況を変えることができるかもしれません。発電による収益を農業に還元することができ、農家所得の向上や安定につながります。農業を適切に継続しながら農家所得にもプラスに働く仕組みを作り上げていけば、これから農業をやりたいと思う人を増やすことにつながると、私たちは考えています」と想いを語る。

東急不動産でソーラーシェアの実証実験を担当する熊澤さん

東急不動産でソーラーシェアの実証実験を担当する熊澤さん

「リエネソーラーファーム東松山」は、渋谷駅から最寄りの東松山駅まで最短64分で、「再生可能エネルギーの見学施設としてアクセスが良い」(熊澤さん)こともあり、視察に訪れる人たちも多いという。自治体からも多数の問い合わせが寄せられ、「特に埼玉県内はかなりの市町村関係者が高い関心を寄せ、視察に訪れています」と熊澤さん。その一つ、埼玉県のほぼ中央に位置する川島町は、東急不動産、綿半ソリューションズと「持続可能なまちづくりに関する協定書」を、2023年6月16日に締結した。同町内で、ソーラーシェア事業などを展開し、地域活性化に結びつけようというものだ。「耕作放棄は、自治体にとって大きな課題。ソーラーシェアは、再生可能エネルギーを利活用するとともに農業離れの解消にもつながると大きく期待されており、この実証実験で良い結果が得られればさらに関心は高まっていくと思われます」と熊澤さんは話している。

埼玉県川島町での協定書締結式の様子

埼玉県川島町での協定書締結式の様子

実証実験では、パネルの角度や高さなど設置に関する条件や、農作物の生育や収穫量などへの影響、発電効果などを検証する。熊澤さんは、「通常よりも高い場所にパネルを設置するため、水田の水面や白色の防草シートで反射した日光からも発電できるよう、片面ではなく、これまで利用できなかった裏面でも発電できる両面パネルを導入し、発電量を計測しています」と話しており、より高い発電効果が得られそうだ、との見通しを示している。

ソーラーパネルの設置工事を行ったのは、エクシオグループ。スマートエネルギー本部課長の岡田優生さんは、「パネルの下の耕作地に実際にどれだけ太陽光があたるか、パネルを設置するための架台の高さやパネルの角度などさまざまな検討が必要でした。農地所有者で、主に米作りをしている農家の関根文男さんとの綿密な話し合いが重要でした」と語る。水田は粘土質で強度が低いため、比較的固い地盤まで、通常よりも長い2.7メートルの深さまで杭を打つ必要があった。関根さんとはパネルの設置前に、実際に農作業で使うトラクターなどの機材を用いて、作業に邪魔にならない支柱の配置を何度も検討した。今後は、架台にソーラーパネルだけでなく、スプリンクラーを設置し、肥料などを自動的にまくことなども視野に入れているという。「何よりも重要なのは、パートナーとなる農家の方たちにどれだけ貢献できるか、ということ。美味しくて安全な野菜を届けるための労力を減らして、スマートでかっこいいイメージに変えていきたい。農業が、より魅力的な仕事になって、営農希望者が増えることにつながってほしい」と岡田さんは話している。

ソーラーパネルの設置を施工したエクシオグループの岡田さん

ソーラーパネルの設置を施工したエクシオグループの岡田さん

収穫作物を活用したサステナブルなカフェも魅力

梅雨が明け、熱い日差しが照りつける7月末に、東松山市の現場を訪れた。「けさも朝5時から雑草とりなどの作業をしていました。日中は暑くてとても作業できませんから」と米作農家の関根さんは笑顔で語る。実証実験では水田が主となっているが、奥の方では、ニンジン畑や、鉢植えのブルーベリーも並んでおり、作物の種類によっての影響の違いなどを測定している。

野菜や果物も栽培してパネルの影響などを検証

野菜や果物も栽培してパネルの影響などを検証

関根さんは、「トラクターなどを使うのに、支柱にぶつからないよう神経は使います。パネルは3メートルほどの高さがあって斜めに設置されているため、農作物への日差しは十分あって、米の場合は収穫量にほとんど影響しません。ただ、支柱の周りの幅の部分には機械を入れることができず、その面積の分だけ収穫が減ることになりますが、それは大きな問題ではありません」と話す。そして「今、米農家は採算が合わず、辞める人が増えています。私は、草ぼうぼうになった耕作放棄地をこれ以上増やしたくありません。農家の収入が増えれば、農業をやろうとする若い人も増えると思います。ソーラーシェアには農業の未来を明るくする大いなる希望があります」と力を込めて語った。

ソーラーシェアの水田で農家を営む関根さん

ソーラーシェアの水田で農家を営む関根さん

東急不動産はまた、この実証実験の取り組みの一つとして、地域共生プロジェクト「TENOHA東松山」を2022年12月に開業した。実証内容の説明や展示ができるイベントスペースや、リモートワークなどに対応したコワーキングスペースもあるが、中心となっているのは、近隣住民や観光客などが利用できるカフェだ。カフェを運営する株式会社佐勇で商品開発などを担当する露詰まみさんは、「できるだけ手を加えず、野菜本来のおいしさを提供したい。ソーラーシェアの農地でとれたニンジンを使ったスープやブルーベリーを使ったデザートも好評です。ソーラーシェアについてはまだ浸透しきれていないかもしれませんが、ここで野菜を食べることで意識することができます。ここで食事をすることがすなわちサステナブルになる、そんな施設にしたいと思っています」と言う。ここでは、自分で収穫した野菜を持ってくると、コーヒーチケットなどと交換できる「物々交換」を実施しており、近隣農家などが気楽に利用できるカフェとして人気だという。「毎朝、野菜を持ってきてくれる人もいます。これからも地域の人たちとのつながりを大事にしてカフェを運営していきたい」

「TENOHA東松山」のカフェ

「TENOHA東松山」のカフェ

ソーラーシェアの農地でとれた野菜や米を提供

ソーラーシェアの農地でとれた野菜や米を提供

今のところ良いことずくめのようだが、ソーラーシェアの拡大には課題もある。「ソーラーシェアの事業はいかに農業を適切に継続して運営できるかが重要ですが、一部では想定より農業が難しいなどの理由で、収穫量や品質を十分に確保できていないような事例もあります。それだけ農業を適切に継続するのは大変なことですが、しっかりそこに向き合って、丁寧に進めることが必要です」と東急不動産の熊澤さんは指摘する。

また、パネルを通常よりも高い場所に設置したり、深く杭を打ったりするため、一般のソーラー発電よりも設置のためのコストがかかることも課題の一つだ。農家の関根さんは「自治体などが補助金を整備してくれると、やってみようという農家が増えるのでは」と自治体側の理解も求めている。

「ただ発電事業をやりたいがために設備を作っておしまい、ではなく、農家ときちんと向き合い、双方がウィンウィンの関係になるように事業を進めたい。この実証実験をもとに、今後、いろんなパートナーと手を組んで、食料やエネルギーの循環に取り組んでいきたい」と熊澤さんは話している。

「TENOHA東松山」はソーラーシェアの説明会や技術展示にも活用されている

「TENOHA東松山」はソーラーシェアの説明会や技術展示にも活用されている

取材にご協力いただいた皆様

  • 関根 文男
    ふみさん農園
    関根 文男
  • 岡田 優生
    エクシオグループ株式会社
    電気・環境・スマートエネルギー事業本部
    岡田 優生
  • 露詰 まみ
    株式会社佐勇
    新規事業部
    露詰 まみ
  • 熊澤 圭悟
    東急不動産株式会社
    戦略事業ユニット
    インフラ・インダストリー事業本部
    熊澤 圭悟