東急不動産は2023年4月、秋田市に本社を置く北都銀行などと共同で、地域共生の拠点となる施設「TENOHA能代」(秋田県能代市)と「TENOHA男鹿」(秋田県男鹿市)を開業した。「TENOHA(テノハ)」とは、“手のひら”と“葉”を合わせた造語。施設を大きな木、新しいライフスタイルをたくさんの葉として、ものを創り出す手と手が重なり合う葉のように広がり、新しい時代に向けて人やモノ、サービスが育っていく場所であることを表す。東急不動産は、全国各地で、地域の課題解決や活性化につなげていく地域共生の取り組みを推進しており、その活動の拠点・舞台となる施設名を「TENOHA」としている。TENOHA能代は、廃校となった小中学校、TENOHA男鹿は、JR男鹿駅前の民間会社事務所を活用、「地域交流スペース」や「産業支援スペース」を創出していく。
ぬくもりある木造校舎を活用したTENOHA能代
能代市常盤地区の旧常盤小学校は、1875年開校の伝統ある学校で、その後中学校を併設。急激な人口減などから2020年に閉校となっていた。能代市は秋田杉を使用した木材産業が盛んで、「木都」と称せられた。常盤小中学校の校舎も木材がふんだんに使われ、温かいぬくもりを感じさせる建物になっている。
能代市商工労働課中心市街地活性化室室長の小林淳さんは、「少子高齢化、人口減が市の最重要課題です」と語る。「常盤地区は、能代市の中でも地域としてのまとまりがあり、まちづくりの取り組みが進められています。常盤小中学校はこの地域のシンボル的な存在であったかと思います。TENOHA能代は、学校の雰囲気をそのまま残しつつ、新しい機能も充実しています。ここは世界遺産・白神山地の玄関口であり、大館能代空港にも近い。地域の交流拠点としてだけでなく、外から来る方にも出会いがある、新しいシンボルとして大いに期待しています」という。
靴箱などが並んでいた昇降口は、カーペットが張られた広い地域交流スペースになっており、職員室や教室も、学校時代のままの形でワーキングスペースにリニューアルされた。TENOHA能代を担当する東急不動産戦略事業ユニット風力発電事業開発部の二宮健斗さんは「間仕切りなどは全く変えていません。職員室の壁のホワイトボードを残したままにしているなど、学校の雰囲気を大切にしてリノベーションしました」と語る。
開業直前の3月、4月には、「家具づくりワークショップ」が開催された。秋田県内の親子連れを中心に約50人が参加。できあがったテーブルは、地域交流スペースに置かれ、誰でも自由に使うことができる。小林さんは「私も参加しましたが、思っていたよりも多くの方々が参加され、驚きました。活気と笑顔にあふれ、とても楽しい催しでした」と笑顔で語った。二宮さんは、「家具づくりワークショップは大盛況で、地元の方に認知していただき、良い滑り出しになりました。ここはフリーでWi-Fiが使えるなど、さまざまな仕事ができる環境を整えています。地方には意外と仕事をできる施設は多くありません。テレワークなどにも最適ですので、地域外の人にもアピールしていきたい」という。
北都銀行GX室長の佐藤貴幸さんは、「地方銀行の存在意義は、地域経済を活性化することにあります。私たちが地域活性化の有効手段として再生可能エネルギーに注目する中で、再エネ事業に熱心に取り組んでいる東急不動産と認識が一致し、秋田県内の今回のプロジェクトを共同で進めることになりました。廃校した学校はたいてい忘れられてしまいますが、このTENOHA能代は新たな施設としてよみがえり、今後も長く記憶に残ることでしょう。地域の交流、活性化の中心的な存在になってもらいたい」と話す。
北都銀行が特に力を入れているのが、再生可能エネルギー関連産業の育成だ。秋田県は風力発電に適した地域で、2022年末時点で、風力発電の累積導入量が国内2位の実績がある。「10年前は再生可能エネルギー事業への融資残高はゼロでしたが、今では600億円以上に積み上がっています。北都銀行は『北都グリーンアクション』の取り組みを開始し、その第1弾で『再エネ100宣言 RE Action』に参画しました。電力の再エネ化を地方銀行としては初めて取り組んでおり、その意味で東急不動産とも方針が一致しています。そのほかの産業でも取り組むべき課題はたくさんあります。秋田県は米が有名ですが、付加価値をつけたものが少なく、農業生産額は実は東北でも下位です。再エネを核として、新しい産業の発展に貢献していきたい」と佐藤さんは話す。
TENOHA男鹿には観光ギャラリーも
また、TENOHA男鹿の建物は、秋田の物流サービスを担う秋田海陸の事務所だったもの。JR男鹿駅前というめぐまれた立地で、レンタルオフィスなどのほか、地元の観光シンボルである「なまはげ」の写真などを展示した観光ギャラリーも設置されている。こちらでは4月に「お庭づくりワークショップ」が開催され、男鹿市民を中心に約30人が集まった。
東急不動産の二宮さんは、「東急不動産はまちづくりの実績があります。そして環境先進企業として再生可能エネルギー事業の開発にも力を入れています。太陽光発電や風力発電などの施設づくりには地域の協力が欠かせません。過疎化、少子高齢化が進んでいる地域では、再生可能エネルギー事業を広めていく可能性があり、そうした新たな産業の導入によって、地域の雇用創出や経済活性化につなげていくことができます。このTENOHA能代やTENOHA男鹿を地域交流、ビジネス交流の核となる存在にしていきたい。そして今後も地元の人たちと連携したイベントを定期的に行い、みんなが集まる場所として楽しんでもらい、活性化につなげていきたいと思っています」と話している。