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東急不動産が展開する都市型賃貸レジデンスは、「COMFORIA(コンフォリア)」と名付けられている。英語で心地よさ、満足を意味する“comfort”と、ラテン語で場所を意味する“ia”を組み合わせた言葉だ。利便性はもちろん、都市を豊かに生きる人にふさわしい、より上質な暮らし心地を提供することを目指している。2022年10月に竣工した「コンフォリア高島平」は、ある大手企業の社宅として使われていた築27年、全76戸の建物を全面的に改装したものだ。既存の建物をリノベーションして提供するのは、コンフォリアでは初めて。壊して新築する場合と比べて、CO2排出量が76%、廃棄物排出量が96%も減少する(※)というデータもあり、 環境への負荷を大幅に削減することが期待できる。既存の建物そのものだけでなく、間伐材や、これまで廃材になっていた物も素材としてさまざまな形で活かされており、より環境に優しく、暮らしを楽しめる、「暮らしのアップサイクル」が実現され、街の新しい価値となる都市型賃貸レジデンスが誕生した。
※出典:『リノベーションによる二酸化炭素排出量および廃棄物排出量の削減効果』(リノベる・金沢工業大学 佐藤考一研究室・国士舘大学 朝吹香菜子研究室)
省エネ強化 既存建物では珍しいBELS認証
コンフォリア高島平は、都営三田線高島平駅から徒歩10分。広々とした中庭をはさんで、7階建てと8階建ての2棟の住居部分が建っている。元は1995年に建てられたもので、比較的築年数がたっているが、改修された今の建物を見ると、新築物件と言われても気づかないほど真新しく感じる。
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コンフォリア高島平
「この建物は、構造、設備がしっかりしていて、メンテナンスも十分に行われていました。造りがとても良く、構造的な劣化はありません」。こう語るのは、リノベーションの設計・監理・施工を担当した、リノベる株式会社都市創造本部事業開発部の課長、大竹涼土さん。東京都港区に本社があるリノベるは、個人向け中古住宅を所有者の希望に沿ってオーダーメイドで改築したり、法人の不動産である大きな建物1棟をまるごと改装したりするなど、多くのリノベーションを手掛けてきた会社だ。
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リノベる株式会社の大竹さん
元の建物が強固な造りだったうえ、各住戸はもちろん、中庭や外構も含めて使える部分は残しながらも、これからの暮らしに合わせて刷新された。しかも、ただ仕様が新しくなっただけではない。大竹さんは、「リノベーション自体が環境にやさしいことはもちろんですが、二重サッシを取り入れるなどさまざまな工夫で断熱を強化し、省エネ化しました。そしてBELS(ベルス、建築物省エネルギー性能表示制度)認証を取得し、新たなクオリティとして提供することを目指しました」と続けた。「BELS」とは、「Building-Housing Energy-efficiency Labeling System」の略で、建築物の省エネ性能について、評価・認定する制度。一般社団法人住宅性能評価・表示協会が運用している。大竹さんは「BELS認証はまだ一般の方にはなじみがない言葉かもしれませんが、快適な暮らしにつながる認証としてこれから重視されていくと思います。しっかりと断熱することで、エアコンの電気代節約やヒートショック予防などにもつながります」という。既存の建物が新たにBELS認証を受けたのは、きわめて珍しいことだ。
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省エネ化の工夫によりBELS認証を取得
そもそもどうして既存の建物を活用することになったのだろう。東急不動産住宅事業ユニット首都圏住宅事業本部の堀光早紀さんは、「コンフォリアはこれまで主に、都心で一人暮らしをするお客さまに、より上質な住まいを提供してきました。しかしながら新型コロナウイルスの感染拡大により、出社せずに仕事をするテレワークが広まり、郊外で広い住まいを求める需要が大きくなってきました。そこで、ファミリー向けの社宅として使用されていたこの物件を取得し、新たに付加価値をつけて提供することになりました」と説明する。「既存の建物を活用することで、CO2も廃棄物も大幅に削減できます。全社で環境経営を推進する東急不動産として、こうした既存建物の再活用は、今後も積極的に取り組んでいくことが大切であると考えています」
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東急不動産でコンフォリアを担当する堀光さん
全室ペット可 犬や猫も快適に暮らせる工夫
通常の賃貸マンションで考慮されるのは最寄り駅からの距離、周辺環境等の立地、賃貸料、築年数などが一般的。堀光さんは「ただ、『環境にやさしい』と訴えるだけでは、入居を希望される方はそれほど多くありません。より快適な暮らしができる、お客さまが住みたいと思うような物件でなくては」と話す。そこで力を入れたのが、共用部分の充実だ。
見通しの良い入居者専用の中庭には、ドッグランや菜園、キッズスペースが設置された。賃貸物件はペットを飼えないものが多いが、このコンフォリア高島平では犬や猫を飼うことができ、ペットたちも快適で、楽しく暮らせるように整備されている。ドッグランのほか、エントランスの足洗い場や、入居者以外も利用できる1階のテナントにはペット専用ランドリーを備えたコインランドリーもある。さらに、4戸あるペット専用住戸は、消臭機能のある壁面タイルや、汚れやひっかきに強くペットに優しい床材を採用した内装、リビングルームの壁に猫が自由に歩き回れるキャットウォークが設置された部屋も。賃貸物件としては類例が少ない、ペット対応が充実した個性あふれる都市型賃貸レジデンスとなっている。
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ドッグランや菜園、キッズスペースが設置された中庭
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キャットウォークが設置された部屋
また、共用部分では集会室として使われていた部屋を大幅改修し、雨の日でも子供たちが自由に遊べる室内のプレイルームや、テレワークでも仕事がはかどるようなワークスペース、テレワークルームが設置された。賃貸物件でこうした施設が整備されているのも、珍しいことと言える。共用部分では、東急不動産ホールディングス「緑をつなぐプロジェクト」の保全森林である岡山県西粟倉村の間伐材を活用したベンチや机、遊具などが設置されているほか、学校の体育館の床材を転用したベンチなどもある。
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共用部には間伐材や学校の体育館の床材が使われている
「アップサイクル」で価値生む 街との繋がりも
社宅として使われていたときは外周がフェンスに囲われ地域に対して閉鎖的だったが、フェンスをなくして広場とし、テラススペースには中庭で使われていたレンガタイルを再利用したほか、枕木や間伐材などを活用。工事で出た残土を使って築山とすることで起伏を作り出しており、コンクリートを解体した廃材さえも、土留めや、ベンチの土台などとして使われている。環境配慮の工夫がさまざまに凝らされ、地域に溶け込んだ、新たな街のランドマークとなった。
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工事で発生した残土や廃材を活用したテラス
リノベる株式会社都市創造本部都市創造部課長の八重森琢磨さんは「各戸内の設備やドア脇の表札部分などにも間伐材をふんだんに使っています。もともとあるものをどれだけ活かせるかが、私たちのリノベーションの見せ所。利用できるものはすべて使い、廃棄物をなるべく出さないようにしました」と話す。「既存の建物を壊して新築するのには多額の費用がかかるだけでなく、環境的な負荷も大きくなります。環境を重視する上でも、今あるものを活用して新たな価値を見いだすリノベーションは、非常に有効です。そうした考え方が社会に広がりつつあることを実感しています」と語る。
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部屋の設備にも間伐材をふんだんに使用
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リノベる株式会社の八重森さん
また、希望する入居者には、バッグ状になった「LFCコンポスト」が1個ずつ配布される。暮らしの中で出る生ゴミを各戸のベランダで手軽に堆肥化できるもので、この堆肥を利用して、中庭の菜園で野菜などを育てることもできる。
東急不動産の堀光さんは「引っ越し先を選ぶときに、築年数を重視しがちですが、こうしてリノベーションすることで、外観や内装が新築と遜色ないだけでなく、他にはない付加価値が加わっています。一般的に、賃貸入居者同士が交流することは少ないのですが、このコンフォリア高島平では、菜園やドッグラン、キッズスペースがあることで、入居者同士も触れ合い、交流が育まれるよう工夫されています。今後、コンポストの活用についても、使い方講座や苗の植え方・育て方講座などイベントを企画し、入居者の皆さまに新しい魅力としてアピールしていきたいと思っています」と話している。
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生ゴミを堆肥化できる「LFCコンポスト」
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菜園など入居者同士の交流を育む工夫を取り入れた