オーガニック食品の輸入・加工・販売などを手掛ける「アルファフードスタッフ株式会社」(本社・名古屋市)は、事業活動を通じて持続可能な社会の発展に貢献するため、SDGsの取り組みを強化する「サステナビリティ宣言」を策定した。この策定に当たっては、株式会社学生情報センター(本社・京都市、略称・ナジック)が提供するサービス「ナジック事業開発ラボ」を活用し、サステナビリティを大学で学んでいる現役の学生がインターンシップとして宣言策定までの作業を行った。
学生が新規事業や新商品の開発に協力
「ナジック事業開発ラボ」は、企業のPRやブランディング、新規事業開拓などの課題に対し、現役学生によるプロジェクトが解決を図るサービス。このサービスの発案者であるナジックの名古屋営業グループ課長代理の林智明さんは、「学生と触れ合う機会が少ない中小企業と、いろんな業務を実際に体験してみたい学生を何とかマッチングできないか、ということから、2016年ごろから始めました。新しいことをやろうとしても余力がなく、新しい発想が生まれにくい企業がたくさんあります。そこで、新商品の開発やそのPRなどについて、新しい視点や発想でインターンシップ生となった学生たちに考えてもらう。仕事の対価を支払い、業務としてやってもらうのです。そうすることで、学生は真剣に仕事に取り組むことになり、企業にとっても、学生の柔軟な発想を活用して新しい取り組みが可能になります」と語る。学生たちにとって、請け負った仕事を通じてそれまで知らなかった業務を体験でき、自分の進路を考える貴重な機会となる。「この事業開発ラボでの体験がきっかけとなり、インターンシップをした会社にそのまま入社するというケースもあります」と林さん。
業務として行う以上、学生たちにも責任が伴う。ただ丸投げしたのでは、その課題にどのように取り組んでいくか分からずに戸惑うことも多い。そうならないよう、企業と学生をつなぎ、学生たちに課題の解決の糸口を見つけられるようアドバイスする「コーディネーター」を置くことになった。学生たちは、会社側の状況も理解しているコーディネーターに協力してもらいながら、その業務を遂行することになる。
これまでの事業開発ラボで手掛けた例としては、古紙のリサイクルを行う会社で、アップサイクルした古紙を利用したパソコンケースやランプシェードの新規商品開発や、輸入車を扱う企業で、アメリカで使われていたスクールバスを無人販売店舗にリノベーションする新規事業、カフェでの新しいメニュー開発などがある。
林さんによると、「初めの頃は企業側も学生たちに任せて大丈夫なのか、と見る向きもありましたが、若い、新しい視点が新規商品、新規事業の開発につながるケースが次々と出て、若い世代の可能性を信じ始めています」という。これまでにこのラボに参加した学生は延べ約180人。「学生たちには、大人の社会と一緒になって何かに取り組むという経験はほとんどありません。そういう学生こそ、自分の可能性がどこにあるのかを見つけたがっています。この事業開発ラボへの参加で自分の世界が広がり、就職先を決めるのに役に立った、という声が学生の間から出るようになってきました」と林さん。インターンシップを経験した人が、大学卒業、就職を経て、今度はコーディネーターとして事業開発ラボに参加し、後輩の学生の指導役にまわるということも多いという。
会社の「サステナビリティ宣言」を策定
アルファフードスタッフの場合、コーディネーターの一人から「この会社はオーガニックな食品を扱っていて、新しいことに取り組む事業開発ラボに合う」と紹介された。事業開発ラボで他のインターンシップを経験した水谷有沙さんが手を挙げ、友人だった小島弘久さんに声を掛けて2人で取り組むことになった。2人とも当時、南山大学国際教養学部4年生で、SDGsやサステナビリティなどを学んでいた。
アルファフードスタッフは1925年、砂糖問屋として創業した。2007年からオーガニックな食材の輸入を始め、ドライフルーツやナッツ類、チョコレート、小麦など140種類の食材を12か国から輸入。食品加工会社や食品店、小売商店などに卸しているほか、自社工場で独自に加工した食品も生産・販売している。常務取締役の浅井紀洋さんは「オーガニックな食品を扱う会社の事業そのものが、SDGsと切っても切れない関係があります。より具体的に会社の方針として取り組むため、『サステナビリティ宣言』を策定することを計画しました。ただ、社内で検討するだけでは、手前味噌になりかねません。第三者の目で、客観的に評価してもらいたい、とナジック事業開発ラボに協力をお願いしました」と語る。
作業は2019年10月にスタート。二人は、社長や常務、各部門の責任者計9人に、担当している業務や、それがSDGsとどう関係しているのか、などについてじっくりとヒアリングした。その後、他社の事例なども調べ、2020年4月に「提言」の形にまとめ、その提言を基に、同6月に「宣言」を策定した。
宣言では「環境と資源を持続可能なものにするための5つの計画」として取り組むべき優先課題として次の5項目を挙げた。
- ▽健康に寄与する食材の取り扱い推進
- ▽有機JAS認証事業者の拡大に貢献
- ▽オーガニックの啓蒙活動の実施
- ▽城北工場の地域社会への恩返し
- ▽フードロスの削減に貢献
さらにそれぞれの課題に応じて、「栄養素を訴求した商品展開を推進」「国内産の有機農産物・加工食品の新規取り扱い開始」「地域の皆さまに向けた商品特売イベントの実施」「規格外農産物を加工した開発商品の販売」――など9項目の取り組みをまとめた。
小島さんは「サステナビリティについては大学で学び、関心を持っていましたが、それまでは理論だけでした。今回、生産現場にも行って、現場の方たちがどういう思いで仕事に取り組んでいるのか、リアルな声を聞くことは大きな経験になりました」と語る。「作業を通して、以前よりさらに食の安全や健康について関心を持つようになりました。また、地域に根ざした企業は、お客さまとの距離が近く、お互いに顔が見える関係性を構築できるのが魅力だとも感じました」とも。大学卒業後は、サステナビリティ、サーキュラーエコノミーなど幅広い分野でウェブメディアを企画運営する会社に就職。小島さんは、企業のサステナブル化を支援する仕事などを担当している。まさに事業開発ラボでのインターンシップ体験が、その後の仕事に結びついた形となった。
「宣言」基にSDGs事業拡大 廃棄カボチャも再生
浅井常務は「ただ宣言をするだけでなく、具体的な事業活動と結びつけていかなくてはいけません。社会性と経済性、将来性のバランスが大切です。有機JAS認証事業者の拡大では、私たちのアドバイスで、3社の工場が認証され、その後、3社が新規に取得でき、さらに3社で取得の見通しです。自治体にも提案し、街の産業振興に結びつくような取り組みも行っています」と話す。
また、農薬を使わず、高い品質のカボチャを作っていた北海道の生産者とも協力。そこでは、「B級品」として販売されないものが年間120㌧も廃棄されていたという。それを活用する手段がなくては、オーガニック野菜の畑や生産者が増えてもフードロスがさらに増えてしまう。有機JAS認証を受けていた岐阜県の会社にこのカボチャを届けて、有機のカボチャペーストを作ってもらい、約2年かけて2022年、オーガニック野菜のクラッカー「ベジクラッカー」を開発した。中間加工品のペーストを利用すれば、ベビーフードやスープの材料にもなる。これまでロスとなっていた物に、新たな価値が生まれている。「宣言で具体的な課題や取り組みを整理してもらい、私たちの会社で普通に取り組んでいることが、SDGsにつながっていくということが社員全体の認識となってきました。これからも、廃棄されていたオーガニック野菜などに新たな付加価値をつけた商品開発や、有機JAS認証をめざす企業への協力などに積極的に取り組んでいきたい」と浅井さんは語った。
ナジックの林さんは、こうした成功例から、「参加した学生は、企業で働いた経験が、卒業後にも確実に役立っています。また、コロナの影響などで中小企業を取り巻く環境が大きく変化する中、若い人の柔軟な発想を生かすことができるこの事業開発ラボは、企業にとってきっとプラスになるはずです。今は中京地区中心ですが、もっと全国にこのサービスを広げていきたいと考えています」と話している。