「東急ハーヴェストクラブ」は、東急不動産が開発し、東急リゾーツ&ステイが運営する会員制リゾートクラブ。別荘を持つ歓びとホテルならではの手軽さを同時に手に入れることができる。1988年に長野県・蓼科で誕生、現在では全国に27の施設があり、約26000人の会員が利用している。中でも「VIALA」は客室面積も広く、より上質なゆとりある空間を提供するシリーズだ。その第6弾となる最新施設「東急ハーヴェストクラブVIALA鬼怒川渓翠」(栃木県日光市)が2022年12月に開業した。レストラン「炅(けい)」は、地元食材を目の前の薪窯で豪快に調理するなど、さまざまな「炎」を使った料理が特徴的。ここで使用する薪は、栃木県や隣県の森を間引いた際に出る間伐材を利用しており、使った分を植樹するなどサステナブルな取り組みを行っている。
地元石材や間伐材を積極的に活用
「東急ハーヴェストクラブVIALA鬼怒川渓翠」(以下、鬼怒川渓翠)は、開業31周年を迎えた「東急ハーヴェストクラブ鬼怒川」に隣接。東武鬼怒川線「東武ワールドスクウェア」駅徒歩3分とアクセスが良く、駅前でありながら雄大な鬼怒川渓谷の自然を間近に感じられる場所にある。「東急ハーヴェストクラブ鬼怒川は長い間、会員の皆さまに親しまれてきました。隣に開業した鬼怒川渓翠は、より上質なくつろぎを提供する施設として計画しました」と東急不動産ウェルネス事業ユニットホテル・リゾート開発企画本部の前田壮吾さんは話す。
正面入り口やチェックイン・カウンターの壁には地元産の大谷石、ラウンジの壁は茨城県産の稲田石が張られているほか、客室露天風呂には栃木県那須産の芦野石、福島県白河産の白河石を採用するなど、地元北関東から東北エリアの国産石材をふんだんに建材として活用。屋外にも敷地内の樹木を伐採・加工したベンチなどを配置しており、鬼怒川温泉のキャラクターである「鬼怒太(きぬた)」をイメージした人形も、間伐材を使って5体作られ、屋外のさまざまな場所に置かれている。「鬼怒太はテラスやエントランス付近など、意外な場所に隠れているので探す楽しみもあります。全社的に環境を重視する方針で、この新規施設でも、間伐材を積極的に活用。消費電力は、すべて再生可能エネルギー由来でまかなうなどサステナブルな取り組みに重点を置くことになりました」と前田さん。
炎の料理を提供するレストラン「炅」をコンサルティングでサポートするのは、ラム肉専門店やシーサイドのバーベキューハウスなど全国50の個性的な飲食店を展開する「オペレーション・ファクトリー」。同社プロジェクトマネージャーの中島晋平さんは、「全国画一的なチェーン店とは一線を画し、場所やお客さんに合わせて最もマッチするような飲食店をゼロから企画を立てるのが私たちの理念です」と話す。
薪に使った分の木の苗を植林
「炅」では、ダイナミックな渓谷に合うコンセプトとして、「炎」を軸に据えた。“食の驚きと新しい体験”を提供するレストランとして、薪窯で香ばしく焼き上げて旨味を閉じ込める薪火、遠赤外線効果でじっくり火を通す炭火、高温の炎で食感と香りをまとわせる藁の火など、さまざまな炎の力で食材のおいしさを最大限引き出した料理を堪能できる。「古くから存在する原初的な火で、現代の生活の中では味わいにくい火との関係を作りたいと思いました。薪、炭、藁などは食材をおいしくする自然燃料ですし、その火の形、造形もそれぞれ違っています。『炎』をビジュアルとしても取り入れて調理する動線を考えました」と中島さん。薪窯はカウンター席近くにあり、食事をしながら、ダイナミックな炎の調理風景も楽しめる作りになっている。
中島さんは、コロナ禍によって外食に求められるものも異なってきたとも指摘する。「コロナ禍で気楽に飲食する機会は減り、よりプレミアムな価値を外食に求める人が増えたように思います。特にリゾートにおいてはそうした傾向が顕著で、リゾートを訪れる皆さんは、特別なサービスを受けたいという思いが強い。そうしたお客様に、季節ごとの地元食材を使った特別な料理を味わってもらいたいと考えています」
「炅」で使われる薪を提供しているのは、「木を植え育てる専門家集団」を自称する「青葉組」。森を育てる育林業を目的として中井照大郎さんが2020年に起業した新しい会社だ。栃木県のほか、新潟県、群馬県、茨城県でも事業を展開している。中井さんは、「日本は森林がとても豊かなのに、その多くが使われずに放置されています。木材として伐採されても、その跡地に木の苗を植えて育てる植林は、3、4割でしか行われておらず、荒廃するばかりです。また森林には、材木を切り出すだけでなく、水源涵養の力もあります。人間の手が入った人工林は、伐採後に放置しても自然に返ることはありませんし、そのままにしておくと森林の力が損なわれ、土砂崩れなどの災害につながってしまいます。材木として出荷する経済的価値だけでは、森林を維持するのは難しい。私たちは、経済的だけでない森林の価値を作っていくことを目指しています」と語る。
林業では、マツやスギなど材木として商品化される以外のクヌギ、コナラなどの木は雑木と呼ばれ、その場で捨てられていた。鬼怒川渓翠では、間伐材のほかこうした雑木も薪に再利用。使った分の苗を植林している。「薪をただ消費するだけでなく、その後の木を育てるサイクルまで見通して展開しているのは、鬼怒川渓翠が初めて」と中井さん。「これから重視されていくのは、生物多様性に配慮した森林です。これまではスギなどを伐採した後には同じ種の苗を植えるだけでしたが、これからは、オオタカが来る森にするには何を植えたら良いか、絶滅危惧種が住みやすい森にするにはどうしたら良いか、といった、生態系を考えて一歩先を目指した取り組みが必要になってくると思います。豊かな森林にしていくため、森林が持つさまざまな価値を活用していきたい」と話している。
食器類は破損したものなど再活用
このほか、「炅」で使われる食器類は、既存の「東急ハーヴェストクラブ」各施設で、ひびが入ったり、数がそろわなくなったりして使用されなくなった物を集め、割れた部分を補修する金継ぎやエイジング加工などを施して再利用している。鬼怒川渓翠の総支配人、鈴木裕臣さんは「開業するにあたり、SDGsやサステナブルをキーワードにしようということになりました。レストランについてもどのような取り組みが出来るか検討する中で、『循環型』という言葉が浮かびました。簡単に捨てるのでなく、何らかの形で再利用するということです。ハーヴェストクラブ全施設の破損した食器類などが倉庫に集められていました。いずれ廃棄される予定だったものです。それをもう一度生まれ変わらせて使うことにしました」と語る。このほか、前菜プレートには、地元・日光東照宮のご神木を用いている。自然災害などで倒木許可が出た樹木から切り出されたものだ。
また、「フードロス削減」も掲げており、規格外などで市場に出せない野菜も集荷して料理に活用している。「料理長が実際に生産者を訪ねてローカル食材を積極的に使用し、その魅力を最大限引き出す料理として提供しています。地元農家や地域農業の発展に少しでも力になれたら、と思っています」と鈴木さんは語る。
東急不動産の前田さんは、「環境やサステナブルを重視するのは、全社的な姿勢です。個々の施設だけではなく、ハーヴェストクラブ全体で連携して展開していくことが重要」と話す。東急リゾーツ&ステイは2025年度までに、東急ハーヴェストクラブ全施設に最新型のバイオ式生ゴミ処理機を導入する予定。この処理機は、廃棄物となっていた生ゴミの約85%を減量し、堆肥化することができる。鬼怒川渓翠では、「できた堆肥は地域の農家に配布するほか、森林の再生にも利用できたらと考えています」(鈴木総支配人)。「コロナ禍はまだ続いていますが、国内外の旅行需要は急激に増加しています。その中で、東急ハーヴェストクラブは、安心、安全、快適にリゾートを楽しめる施設として、ご評価いただけるよう努力しています」と前田さん。鈴木さんは、「環境に配慮した施設をアピールするだけでなく、お客さまが楽しみながらサステナブルな取り組みに参加できるような、例えば薪作りや植林などを体験してもらうようなアクティビティも今後、検討したい」と話している。