「東急リゾートタウン蓼科」で2017年から始まった『もりぐらし』の取り組み。森を守り、森と共に暮らしていくためには、地域の人々の理解と協力が欠かせない。自治体や地域の人々も、豊かな森林資源を活用しながら未来につないでいく『もりぐらし』に賛同し、その取り組みはリゾートタウンがある茅野市へ、さらには茅野市を含む諏訪地域へと広がりを見せている。2022年3月には、東急不動産株式会社と東急リゾーツ&ステイ株式会社、茅野市、諏訪地域の脱炭素化をめざす一般社団法人諏訪広域脱炭素イノベーション協会が「地域循環共生圏に関する包括連携協定」を締結した。共に協力して、多くの旅行者や別荘利用者が訪れる八ヶ岳西麓地域の自然環境や景観を守り、「地域循環共生圏」の創造を通じた、カーボンニュートラルな街作りを目指していくことが狙いだ。さらに、『もりぐらし』は東急リゾーツ&ステイのSDGsブランドとして再構築され、取り組みは全国へと広がっている。
森林活用の「地域循環共生圏」で活性化めざす
協定では、東急不動産、東急リゾーツ&ステイ、茅野市、諏訪広域脱炭素イノベーション協会が、次の事項について連携・協力することとしている。
(1)森林資源を核とした持続可能な地域循環(もりぐらし)の推進
(2)SDGs、カーボンニュートラルの推進
(3)再生可能エネルギーの地産地消
(4)防災・減災のまちづくりの推進
(5)安全・安心で快適な暮らしの実現
(6)高齢者・子育て世代に配慮したまちづくりの推進
(7)魅力ある産業・サービスの創出
(8)交流・関係人口の創出と移住・定住の促進
(9)その他協定の目的を達成するために必要な事項
諏訪広域脱炭素イノベーション協会代表理事の元木誠さんは、「自然を守るというと、人間が手を加えずそのままの姿で、と思いがちですが、それは少し違います。日本の森林の8割は先人が植林した人工林です。人工林は、人の手が入らないと荒廃してしまうのです。ただ、時代と共に木材の価値が低下し、人の手が入りにくくなっていました。そうすると大雨などの際に土砂崩れが起きやすくなってしまいます。しかし、森林資源として豊かな自然が価値に変わる時代を迎えようとしています。この豊かな資源を活用して循環させ、住みやすい、暮らしやすい地域を目指すきっかけが、脱炭素です」と語る。「今までは、森林保護や脱炭素というと、自分がやっても変わらない、と人ごとのように考える人が多かったと思います。でも脱炭素に関するフォーラムやシンポジウムなどを開催していると、興味を持つ方が増えてきたことを実感します。包括協定は、官・民・地域共同で脱炭素への姿勢を見せるものです。今後、さまざまな具体的活動をしていくことで、地域の活性化につながってほしい」と期待を込めている。
蓼科から諏訪地域へ広がる『もりぐらし』
地域と共に森を守る活動は、包括協定締結前から行われてきた。東急リゾートタウン蓼科は、観光関係、森林関係の団体や住民団体、茅野市などとともに「茅野市鹿山地区もりぐらし推進地域協議会」(略称・もりぐらし協議会)を発足。森を守る、使う、つなぐの「もりぐらし」の取り組みを地域全体に広げてきた。
「東急の森はここまで、というのはありますが、実際には森林や山に境目はなく、外側とつながっています。東急リゾートタウン蓼科だけでなく、近隣の別荘や周辺地域と協力して『もりぐらし』を推進することが、森や地域全体の価値や魅力の向上につながります」と東急リゾーツ&ステイ地域創造統括部の徳田圭太さんは語る。
また、茅野市産業経済部商工課の北原一秀さんは、「東急リゾートタウン蓼科の『もりぐらし』には、森を守り、森と共に暮らすためにあるべき地域の姿があります。森林経営計画を作って森林を自ら管理し、間伐材を活用するほか、森の中で働くワーケーションを展開するなど、ビジネスに組み込んでいる『もりぐらし』は、この地域がやるべきことを示してくれる教科書であり、道しるべです」と言う。
北原さんは長野県伊那市出身。大学進学で上京後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2013年、35歳のときに茅野市職員に採用されて、東京から移住した。「東京では、人生を消費するという感覚でした。移住した前年に長男が生まれたこともあり、このまま東京で暮らすことが良いのか疑問に思いました」ときっかけを語る。「茅野市では、コロナをきっかけに市外からの転入者が増加しています。移住者も以前はシニア層が多かったのですが、子育て世代が増えています。首都圏にいなくても仕事ができるテレワークも広がってきました。その点、茅野市は、自然が豊かで東京にも特急ですぐに行けるという立地条件に恵まれています。ただ、若い世代が定住するためには、受け入れる環境を整えることが大切です。『もりぐらし』の取り組みを公民連携で推進することで、みんなが生き生きとして暮らせる住みやすい地域づくりにつなげたい」と話す。
再構築された『もりぐらし』は全国で展開
『もりぐらし』は2021年に東急リゾーツ&ステイのSDGsブランドとして再構築され、蓼科だけにとどまらず、全国へと広がっている。
東急リゾーツ&ステイは2023年3月までに、東急ハーヴェストクラブ旧軽井沢(長野県)などホテル7施設に、最新型のバイオ式生ゴミ処理機"コンポスト"を導入することを決めた。この処理機は、廃棄物となっていた生ゴミの約85%を減量し、堆肥化することができる。
東急ハーヴェストクラブ旧軽井沢は2022年8月に先行導入しており、できた堆肥を近隣の提携農家に提供している。今後、提携農家で収穫された野菜をホテル内のレストランで提供する予定だ。今後導入するホテルタングラム(長野県)は夏季に敷地内でトウモロコシを栽培している「もろこし村」で、東急ハーヴェストクラブ浜名湖(静岡県)は「ハーヴェストガーデン野菜畑」で堆肥を活用し、野菜を栽培する。運用方法の検証などを行ったうえ、2025年度には東急ハーヴェストクラブ全27施設にバイオ式生ゴミ処理機を導入する予定だ。
『もりぐらし』では都市と自然をつなぐことを目指しており、コンセプトを体現する商品開発も進めている。間伐材や地元産の木材を活用したアロマ商品「アロマライフ リゾート」は、東急リゾーツ&ステイの施設がある地域を代表する木々の香りを再現しており、全国の東急ステイで導入。蓼科はカラマツ、軽井沢はコブシと白樺、阿蘇はヒノキから抽出した天然精油を配合し、都会での生活の中でも大自然の香りを手軽に楽しめる。
2016年の熊本地震で被災した阿蘇東急ゴルフクラブでは、地元の今木養蜂園が協力して養蜂で復興を図り、できた蜂蜜が「asohachi」として商品化された。その後、東急リゾーツ&ステイの全国各地の施設にその輪が広がり、「tabihachi」として長野県蓼科、群馬県玉原、千葉県勝浦で地元産蜂蜜の販売を開始した。
このほか、スキージャム勝山(福井県)で地球の成り立ちや自然環境を学ぶ「勝山自然塾」や、グランデコリゾート(福島県)での自然環境教育「裏磐梯プロフェッショナルプログラム」、玉原東急リゾート(群馬県)での自治体や地域団体と連携したブナ林などの環境保全活動、斑尾東急リゾート(長野県)での地域住民・顧客参加型の「サンデーマルシェ」など、東急リゾーツ&ステイの『もりぐらし』の試みは、全国各地でさまざまな取り組みを展開。森と自然と地域の関わりを創出し、森を守り育てる活動を推進している。
東急不動産ウェルネス事業ユニットの石原宏基さんは「東急不動産グループとしても、生ゴミを堆肥化して食材を育てる取り組みに続いて、規格外の野菜を活用してフードロスを削減することも検討しています。地元企業や自治体と一緒に取り組んでいくことで、地産地消の循環型社会の実現に貢献したいと考えています。ただ、生ゴミを堆肥化したとか、バイオマスボイラーを設置したからといって、それだけではお客様がリゾート地を選ぶ基準にはなりにくい。豊かな森や自然を満喫できる体感型のコンテンツをさらに充実させるなどして、森を守り、育てるリゾート開発・運営を進めていきたい」と話している。