東急不動産ホールディングスが行う環境取り組みを詳しくご紹介
GREEN PIONEER NEWS

自然・社会・経済にダメージもたらす
「食品ロス」問題。
その解決に挑む「フードテック」とは?

  • # 循環型社会
  • # フードテック

政府の統計によると、日本における年間の食品ロス量は約522万t(令和元年度推計値)。国民1人当たりに換算すると毎日、茶腕約1杯分の食べ物を捨てている計算になる。こうした無駄な食品の廃棄は、積み重なることで環境への大きな負荷となるのはもちろん、社会や経済にも様々なダメージをもたらす。この食品ロスの問題にFood(食)とTechnology(技術)を掛け合わせた「フードテック」で挑む企業や団体の取り組みを紹介する。

国民一人当たり食品ロス量

食品ロスが引き起こす「3つの問題」

食品ロスがもたらす問題としてまず挙げられるのは、環境への負荷だ。捨てられた食品を処分する際には多くの温室効果ガスが発生する。日本では食品廃棄物の多くが焼却処分されているが、海外では埋め立てによって処分する国も存在する。埋め立てられた食品から発生するメタンガスには二酸化炭素の約25倍の温室効果がある(※IPCC第4次評価報告書)とされており、気候変動の大きな要因となっている。

社会的な悪影響も甚大だ。新型コロナウィルスの蔓延やロシアのウクライナ侵攻も影響し、世界ではいま、約8億2,800万人が飢餓に直面している(2022年版「世界の食料安全保障と栄養の現状」ユニセフなど)といわれており、今後はさらなる人口増加を背景に一層深刻な食料不足が起きると予想されて、食品ロスの問題はこの状況を生み出す要因の一つとなっている。満足に食べられない人たちがいるにも関わらず、食料資源が有効に活用されていない現状は、倫理的にも許されない状況といえるだろう。

もちろん、食品ロスは経済的にも大きな損失をもたらしている。食品やそのパッケージには生産過程や流通において多くのコストがかかっており、それらが消費されないまま廃棄されるということは、その製造や輸送にかかる労働も無駄になっていることを意味する。食品ロスは、自然環境と社会、経済のそれぞれに大きなダメージをもたらしているのだ。この問題の解決に向け、「フードテック」を活用し、食の可能性を広げるためにさまざまな企業が取り組み始めている。

弁当の廃棄ゼロ目指す「グリーンローソン」

フードテックとは、食の領域を表すフード(Food)と、テクノロジー(Technology)を組み合わせた言葉で、代替肉や昆虫食などの食品の開発から、フードデリバリーなどの流通、レストランで見かけるフードロボットも含まれ、食の領域を幅広くカバーする新しい産業分野だ。

コンビニ大手のローソンは2022年11月、都内に「グリーンローソン」をオープン。グリーンローソンでは同社がこれまでに実施してきた環境配慮や省人化など20種を超える施策を取り入れ、ローソンが目指す近未来型店舗の実現を目指している。

例えば弁当については、通常のローソン店舗で販売している「チルド弁当」や「常温弁当」の販売は行わず、今回新たに発売する冷凍弁当と、店内厨房で作る弁当のみを販売。弁当の廃棄を大幅に削減し、今後の廃棄ゼロに向けて検証を行う。またフライドフーズや弁当など、店内厨房の一部メニューについては作り置きをせず、インターネットを通じて注文を受けてから作る。さらに各家庭で余っている食品を持ち寄って寄付する「フードドライブ」も実施。ローソンではこの店舗での検証を経て、今後は各施策を全国のローソンの最適な店舗に導入していく予定だという。

新たに販売する冷凍弁当1 新たに販売する冷凍弁当2

新たに販売する冷凍弁当

モバイルオーダーの注文画面

モバイルオーダーの注文画面

アプリを活用した食品ロス削減サービスも

近年では、一般消費者が食品ロス削減に貢献できるオンラインサービスも誕生し、一般生活者と生産・販売者が簡単につながれるようになっている。

フードシェアアプリ「TABETE」は、アクセスしやすい地点を登録すると、その界隈の店舗で余ってしまったパンや総菜、予約がキャンセルされてしまった食事などが「レスキュー依頼」として掲載される。利用者はほしい食品を見つけたら、クレジットカードであらかじめ決済し、店で商品を受け取る。

フードシェアアプリ「TABETE」

フードシェアアプリ「TABETE」

また、食品ロス削減アプリ 「Let(レット)」は、余った在庫や型落ち品、見切り品、B級品、規格外品などの「訳あり品」が出品されるオンラインマーケットだ。農産品や加工食品など幅広い品目を取り扱っており、インターネット上で購入すると自宅に配送される仕組みだ。

食品ロス削減アプリ 「Let(レット)」

食品ロス削減アプリ 「Let(レット)」

日本特有の商慣習、ルールの見直しが不可欠

食品ロスの問題をめぐる近年の国内外の動向について、専門家はどう見ているのか。食品ロス問題ジャーナリストの井出留美氏(office3.11代表)に聞いた。

── いま食品ロスに注目が集まっている理由は?

2015年に国連サミットで採択されたSDGsの17のゴールのうち、12番(生産者も消費者も、地球の環境と人々の健康を守れるよう、責任ある行動をとろう)のターゲット3は「2030年までに捨てられる食料(一人当たりの量)を半分に減らす」と定められました。このことは非常に大きかったと思います。

また国内でも、東日本大震災の発生時にはせっかくの支援物資がうまく活用されずに廃棄されるということが起きました。2015年には廃棄されたはずの冷凍食品を業者が横流しするという事件が起こっています。国の動きでいうと、2015年には生活困窮者自立支援法という法律が施行されてフードバンクへの需要が高まり、そして2019年には食品ロス削減推進法が施行されました。これらのことが食品ロスに対する社会全体の関心を高めてきたのだと思います。

食品ロス問題ジャーナリスト・井出留美さん

食品ロス問題ジャーナリスト・井出留美さん

── 食品ロスが社会にもたらす影響として最も大きいのは?

生ごみの埋め立てによって発生するメタンガスや、焼却処分で発生するCO2などによる温室効果ガスがもたらす「環境への負荷」です。日本でいうとCO2排出量は世界第5位、一人当たりの排出量も大変多いので、そうした観点からも食品ロスを減らすことは重要といえます。日本の食料自給率は38%(令和3年度カロリーベース総合食料自給率)ですから、他国の資源を費やしてまで生産された食品を無駄にしているともいえるわけで、早急に改善していく必要があります。

食品ロスの問題をテーマに取材をしていると「食品ロスは経済発展のための必要悪」、「食品ロスを減らすと経済が縮む」といった声も聞かれますが、暮らしの土台である自然環境が損なわれてしまったら、社会も経済も成り立たなくなってしまいます。国民、そして全人類共通の課題として、食品ロスの削減に取り組む必要があると思います。

── 日本で多くの食品ロスが発生している要因は?

食品を取り扱う業界にはいろんなルールや商慣習があり、それらが食品ロスを生み出す大きな要因となっています。食品には「おいしく食べられる目安の期間」として賞“味”期限が設定されていますが、その期間が残り3分の1となる前に、卸業者が小売店に納品しなければならない「3分の1ルール」があります。また、前日に納品したものより賞味期限が1日でも古い商品は納品できない「日付の逆転」「日付後退品」の納品拒否や、欠品(品切れ)が許されないなどの習慣が根強く残っていることも問題と言えるでしょう。

食品の流通においては小売業者が持つ力はあまりにも大きく、それに従わないメーカーは取引を続けることができなくなってしまう。この状況を各企業だけで改善するというのは現実的でないので、国としても法改正などで働きかけをしていくことが求められると思います。

また、3R (Reduce・Reuse・Recycle)で考えた場合、本来はそもそもつくりすぎない「Reduce」にこそ力を注ぐべきなのです。企業はこれまで大量生産・大量廃棄という直線的にモノが流れる「リニア・エコノミー」の中で利益を追求してきたわけですが、今後はいかにして「サーキュラー・エコノミー」(循環経済)を形成していけるか、今まで捨てていたものを捨てずに資源として循環させていくかを考えていく必要があります。

── 食品ロスを減らすためにできることは?

例えば韓国では、2005年に生ごみの埋め立てが法律で禁じられたのを機に、再生利用が活発になっています。ソウル市内などでは市民が生ごみを入れられるポストのようなものが設置されていて、生ごみを捨てた人が量に応じた料金を支払い、集められたごみを資源として発電などに活用する仕組みが運用されています。日本でも、いくつかの自治体は生ごみを資源として活用していますが、こうした仕組みを導入すれば、廃棄された食品を、より有効に活用することができるかもしれません。また近年はヨーロッパを中心に、青果物の賞味期限表示の撤廃や、消費期限表示から、より緩やかな賞味期限表示への切り替えが進められていますが、これも食品ロスの削減につながる取り組みだといえるでしょう。

日本でも数年前から、経済産業省がバーコードの代わりになるRFID(電子タグ)の実証実験を進めています。RFIDを活用すれば商品の個体管理ができるので、例えば食品に何らかの問題が生じて自主回収する場合にも、従来のロットナンバー管理に比べて、より少量の廃棄で済ませることができるようになります。また、ダイナミックプライシング(需要や品質などに応じて価格を変動させること)による自動的な値上げや値下げも可能になるので、食品ロスの削減に寄与することが期待されます。私たち消費者も、消費期限や賞味期限の近づいた商品を選ぶことなどにより、食品ロス削減に貢献しやすくなるでしょう。

国と企業、そして消費者が、それぞれの立場で食品ロス削減に向けた取り組みを実践していくことが大切だと思います。

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