東急不動産ホールディングスが行う環境取り組みを詳しくご紹介
GREEN PIONEER NEWS

「環境配慮」でファッションが変わる!?
官民で進む“改革”の現在地

  • # 循環型社会
  • # サステナブルファッション

国連貿易開発会議(UNCTAD)が2019年4月30日に発表した資料によると、ファッション産業は石油産業に次いで“世界で2番目に環境負荷が高い産業”といわれる。衣類の生産過程では大量の水やエネルギーが消費され、多くのCO2や有害化学物質が排出される。そして役目を終えると大量のゴミとして捨てられ、合成繊維から発生するマイクロプラスチックは河川および海洋汚染の原因ともなっている。こうした現状を憂慮する声は世界的に高まっており、2019年の先進7か国首脳会議(G7サミット)では、企業による環境負荷削減を目指す「ファッション協定」が示された。さて国や各企業はこの課題をどう捉え、解決に向けてどのように取り組んでいるのだろうか。

国内に供給されるファッション産業のネガティブインパクト

国内に供給されるファッション産業のネガティブインパクト

企業と生活者の協力で「サステナブルファッション」実現を

環境省のホームページによると、日本ではこの30年ほどの間に、供給量の増大と価格低下によって「大量生産」と「大量消費」が進行していることが分かる。

1人が手放す服は年間平均で約12枚、ほとんど着用されない服は25枚と推計される。またReduce(リデュース)、Reuse(リユース)、Recycle(リサイクル)のいわゆる「3R」が呼びかけられるようになって久しいが、依然として7割ほどの服が単なる“ごみ”として廃棄されてしまっているのが実情だ。

国内アパレル供給量・市場規模の推移 衣服一枚あたりの価格推移 服を手放す手段の分布

この状況に危機感を抱く環境省では「サステナブルファッション」を呼びかけている。衣服の生産から着用、廃棄に至るプロセスにおいて将来にわたり持続可能であることを目指し、生態系を含む地球環境や関わる人・社会に配慮を求める。このメッセージの特徴は、ファッション産業に関わる企業と服を購入する生活者の双方に向けられていることだ。

環境省「ファッションと環境」タスクフォースリーダー・岡野隆宏氏は「服が大量生産・大量消費・大量廃棄されるという現状は、決して企業だけがつくってきたわけではありません。私たち生活者にも、そういう暮らしや社会を選択してきてしまった責任があるのです」と、産業とともに私たち一人ひとりのライフスタイルも変えていく必要があるのではないかと問いかける。

生活者のライフスタイルを変えるカギとして岡野氏が挙げるのは「透明性」だ。「それぞれの服がどこで作られて、環境にどれだけの負荷がかかっているかが“見える化”されれば、私たち生活者はそれぞれの価値観に合った製品を選んで、応援することができるようになるでしょう。選んだお気に入りの服は長く大切に着て、その後は他の人に譲ったり、資源として再利用したり。そうしたライフスタイルを、企業と生活者が協力して築いていくことで、ファッションはもっと環境に優しいものになっていくはずです。私たちは今後もそのためのきっかけづくりに取り組んでいきたいと考えています」(岡野氏)。

SUSTAINABLE FASHION

環境省「サステナブルファッション」サイトはこちら

初のリセール事業で挑戦する「製品のロングライフ化」

もちろんファッション業界にも、以前から自主的に環境負荷の低減に向けて活動してきた企業は少なくない。「THE NORTH FACE」など19の人気ブランドを展開する株式会社ゴールドウインもその一つだ。

かねて「製品のロングライフ」に力を注いできたゴールドウインは2022年7月、「GREEN BATON」というサステナブル・レーベルを立ち上げた。自社で展開する人気ブランド「THE NORTH FACE」と「HELLY HANSEN」のキッズ向け製品を一般ユーザーからクーポン券による買い取りを行い、クリーニングやリペア・アップサイクルを施す。新たな価値を付けた上で次のユーザーへと販売するという、同社初のリセール事業に取り組んでいる。

「私たちは従来からリペア(キッズウエアは無償)にも力を入れてきたのですが、子どもの成長に伴ってサイズアウトした製品の処分方法を調査すると「おさがり」に次いで多いのが「廃棄」であることが分かり、衝撃を覚えました。そこで長年にわたって培ってきたリペアスキルを活用してリセール事業を行うことにより、そのサイズのウェアを必要としている別の方へ手渡すことができないかと考えたのです」(ザ・ノース・フェイス事業1部エキスパート 畑野健一氏)。

買い取りは直営店舗の対象15店舗で実施しており、再生された製品は11月8日にオープンするPLAY EARTH KIDS恵比寿ガーデンプレイス」にて販売を開始する。「メーカー自身が責任をもってリペアを行う」という点で、一般の古着マーケットとは大きく異なる、ユニークな事業といえるだろう。

ワッペンやあて布などでリペアする「リペアカスタム」

ワッペンやあて布などでリペアする「リペアカスタム」

使用できるパーツを集め、再利用した「アップサイクル」

使用できるパーツを集め、再利用した「アップサイクル」

オリジナルリペアワッペン(イメージ)

オリジナルリペアワッペン(イメージ)

「カーボンフットプリントを最も低く抑えたスニーカー」が話題に

日本を代表するスポーツメーカーである株式会社アシックスは2020年、全国各地から回収したスポーツウェアからリサイクル糸を製糸し、再びスポーツウェアによみがえらせるプロジェクト「ASICS REBORN WEAR PROJECT」を実施するなど、再生素材を用いた商品開発に力を入れている。

2022年9月、「温室効果ガス(カーボンフットプリント)排出量を最も低く抑えたスニーカー」として「GEL-LYTE Ⅲ CM 1.95 (ゲルライトスリーシーエム1.95)」を発表し、大きな話題を呼んだ。

このスニーカーは、ライフサイクル(①材料調達&製造 ②輸送 ③使用 ④廃棄)における温室効果ガス排出量を1.95kgCO2e/pair(二酸化炭素換算)に抑えており、排出量が公表されているスニーカーの中で最少。2010年に行われたマサチューセッツ工科大学との共同研究を出発点に研究を重ね、材料調達や工程を改善することで、商品の快適さや品質を損なうことなく、GEL-LYTE Ⅲ CM 1.95を実現することができた。

同社の代表取締役社長CEO兼COO 廣田康人氏は「この商品は『2050年までに温室効果ガス排出量実質ゼロ』に向けて、スポーツ業界に真のポジティブな変化をもたらすことを願って開発した製品です」と胸を張る。2023年の販売に向けて準備中で、この商品の開発で得たヒントを将来より大きな規模でアシックス製品に展開したいとしている。

温室効果ガス排出量を最も低く抑えたスニーカー「GEL-LYTE Ⅲ CM 1.95」

温室効果ガス排出量を最も低く抑えたスニーカー「GEL-LYTE Ⅲ CM 1.95」

“繊維から繊維を生み出す”大手総合商社ならではの仕組み

ファッションを通じた環境負荷低減へのチャレンジは、メーカーにとどまらない。大手総合商社・伊藤忠商事の繊維カンパニーは2019年、繊維業界が抱える廃棄問題の解決に向け、原料から製品までを一貫して扱える商社の強みを活かした「RENUプロジェクト」を発足させた。生産工程で出てしまう余った布(残反)や裁断くず、また廃棄されるはずだった古着などのポリエステル繊維からリサイクルポリエステル「RENU」を再生し、新たな製品として再び市場へと循環させていく取り組みだ。

使用済みペットボトルを原料とし、溶かして再度糸にする「マテリアルリサイクル」と呼ばれる手法を取る一般的なリサイクルポリエステルに対して、「RENU」は「ケミカルリサイクル」と呼ばれ、分解・再重合などといった化学的な手法によって再生される。そのため、原料となる回収繊維製品の持つ色や雑物などが全て除去されており、染色性・発色性に優れるなど高品質で、すでに国内外の約100の企業およびブランドの製品に採用されているという。

繊維原料課長 下田祥朗氏は「お客様であるブランドや企業などと協力して、生活者に対して素材起点のサステナビリティを発信し、ファッション業界の抱える環境問題に立ち向かっていきたい」と展望を語る。2022年3月には、「RENUプロジェクト」の一環として店頭で使用済みの服を回収・選別し、再利用・再資源化を推進する『Wear to Fashion』という取り組みを始動させた。初年度は600トン、3年後には6,000トンを目標に回収し、衣料品のライフサイクルの長期化を目指していく。

RENUがもたらすサーキュラーエコノミー

RENUがもたらすサーキュラーエコノミー

ファッションの中心地に「サステナブルなコミュニティ」が誕生

2021年7月、表参道・原宿エリアには東急不動産株式会社と株式会社STORY&Co.、ブラザー販売株式会社という3社の協力のもと、循環型ファッションの実現化を目指すファッションコミュニティ「NewMake」の拠点となる「NewMake Labo(ニューメイクラボ)」が誕生した。

ここではコミュニティメンバーに登録した人々が、国内外の有名ブランドから提供される衣服や雑貨、残布を、施設内にあるミシンやプリンター、裁縫道具などを駆使してリメイクし、付加価値の高い製品に作り替える「アップサイクル」に取り組んでいる。

素材として使用されるのは、サンプル品やB品、日本の規格にフィットせず販売に至らなかった製品。すでに「ミッソーニ」「オールドイングランド」「ニューバランス」「デサント」「コールマン」「アディダス」など、NewMake Laboの取り組みに賛同する国内外の有名ブランドが多くの製品を提供している。

制作された作品は、展示などのイベントを通じた啓蒙活動に活用しているほか、2022年3月には初の販売を阪急うめだ本店(大阪府)にて実施し、今後も拡大していく予定だ。

この場で生まれた企業とブランド、クリエイターの出会いが、ファッション産業の環境負荷低減につながる新しい価値を創造していくことが期待される。

「ニューメイクラボ」の施設

施設内にはミシンやプリンター、裁縫道具、素材といった機材がそろう

ファッションと環境 課題解決は生活者と企業の“意識”から

幼い頃から環境問題や社会課題に高い関心を持つ“SDGsネイティブ”が中心的な購買層へと育ちつつあるいま、「ファッションで環境負荷を減らそう」と意識を持つとともに、生活者が「気に入って買ってみたら、たまたま環境に配慮した商品だった」という規模にもっていくことが、企業に期待される。選択肢のひとつとしてSDGsが加わり、環境や人・社会に配慮された商品を選んでいこうという流れは、企業にとっても生活者にとっても欠かせない視点となっていくに違いない。

服を買うとき、デザインや価格にばかり意識が行ってしまいがちだ。まずは一着が作られるまでの工程に思いをはせてみることから始めるのもいいかもしれない。

1.今持っている服を長く着よう 2.リユースでファッションを楽しもう 3.先のことを考えて買おう 4.作られ方をしっかり見よう 5.服を資源として再活用しよう

生活者に期待される“サステナブルファッション”に必要な視点