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コロナ禍によるEC市場拡大などによりプレゼンスが高まる一方の物流業界。長年にわたって環境への影響や人材不足といった課題も抱えてきたが、近年は物流施設やそこでの働き方も大きく変化しつつあるという。そんな変わりゆく業界の現状をレポートするべく、物流施設「LOGI’Q(ロジック)」を展開する東急不動産株式会社と、同施設をテナントとして利用する東京アート株式会社を取材した。
いま求められるのは「環境配慮」と「デザイン性」
東急不動産の大原雄史さん(戦略事業ユニットインフラ・インダストリー事業本部)は、物流施設に対するニーズの変化の背景について「環境意識の高まり」と「人材確保の困難さ」を挙げる。
「近年は物流業界でも、地球環境に配慮した事業のあり方を目指す会社が増えており、倉庫にもグリーンエネルギーの導入などを希望されるケースが増えています。また、近年の労働者不足などを背景に人材確保は年々難しさを増しているため、従来よりも通勤しやすい市街地付近の物件が求められるようになってきています。そのようなエリアに建てるとなると、外観のデザインも周辺環境と調和するような倉庫にすることが必要になるのです」と大原さんは語る。
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LOGI‘Qを担当する東急不動産の大原さん
東急不動産が展開する「LOGI’Q」とは?
東急不動産が物流事業に参画したのは2016年。当初は他社とのJVに参加してノウハウを蓄積し、単独で物件の建設に着手したのは2018年のことだった。その年に手がけたのが千葉県習志野市の物流倉庫で、これを含む3つのプロジェクトの開始と同時に、同社の物流施設ブランド「LOGI’Q」を立ち上げた。
LOGI’Qの物流施設は、単にモノを保管する場所ではなく、働き手に寄り添って「多彩なライフスタイルをつくる」、再生可能エネルギーを活用して「サステナブルな環境をつくる」、「デジタル時代の価値をつくる」などの特長を備えているという。
大原さんは「当社には長年取り組んでいる街づくりを通して培った、周辺環境に調和する物件開発のノウハウがあります。それを活用することで、例えばランプウェイ(螺旋状のスロープ)に緑化パネルを付けたり、休憩室に木材や植物を多用したりするなど、物流施設で働く方々や周辺に暮らす皆様に心地よく感じていただける外観および内装のデザインを施しています。また、屋上に太陽光パネルを設置し、生み出されたグリーン電力をテナント企業様に安定した価格でご利用いただけるようにするなど、環境負荷軽減サービスの提供やBCP(事業継続計画)の支援にも取り組んでいます。さらに、ローカル5Gネットワークを導入した研究エリアを設けることで、機械化の促進や働き方改革のサポートにも挑戦しています。物流施設はいまや、防災拠点としての利用など、従来の用途を大きく超えた役割を求められています。そうしたニーズに応えられるよう、LOGI’Qは進化し続けるブランドでありたいと考えているのです」と話す。
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テナント企業にグリーン電力を供給予定の太陽光パネル(LOGI‘Q京都久御山)
東急不動産は環境先進企業として、事業活動に必要な電力を再エネ100%電力とする国際的なイニシアチブ「RE100」に不動産業(※)として初めて加盟し、オフィス・商業施設・ホテル・リゾート施設での再エネ切り替えを進めている。物流施設事業にもその理念を反映させ、LOGI’Qに入居するテナント企業とその荷主企業等向けに、再エネ発電所由来の電力「ReENEグリーンエネルギー」を活用した環境負荷軽減サービスの提供を開始した。物流施設屋上にオンサイトPPA契約により設置した太陽光発電設備で発電した生グリーン電力を当該施設内で活用するほか、同社が全国で展開する再エネの発電所で発電した再エネ100%電力を、トラッキング付非化石証書をもって共用部・専有部へ供給する仕組みだ。
※東京証券取引所市場第一部上場企業の業種別分類に基づく。
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「ReENEグリーンエネルギー」の供給スキーム
テナント企業に聞く「LOGI’Q」の評価
実際にLOGI’Qに入居するテナントの声を取材するべく、同ブランドの第1号物件「LOGI’Q習志野」を物流センターとして利用する東京アート株式会社の岩品健一さん(ロジスティクス部第二物流センター次長)と山下麻衣さん(営業本部課長)に話を聞いた。
東京アートは、アパレル企業向けの紙袋を中心とする包装資材のメーカーだ。創業1976年の老舗で、国内外に紙袋の工場を有しており、顧客の希望するパッケージの一からの制作を得意としている。早くから再生紙を活用するなど、3R(リデュース・リユース・リサイクル)を積極的に実践してきた。2008年からは「森づくりプロジェクト」を展開。カーボンフリーコンサルティング株式会社と提携し、モンゴルおよび長野県にカラマツの植林をすることで紙袋の製造・運搬・焼却の3段階で発生するCO2分を相殺するというカーボン・オフセットにも取り組んでいる。非常に環境意識の高い会社といえるだろう。
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モンゴルで実施した「森づくりプロジェクト」の植林活動
同社は旧物流センターが築30年以上を経過して老朽化し、手狭になっていたため、建て替えを決定。10社以上から提案を受けたが、その中から東急不動産をパートナーに選んだ。費用はリースバックで捻出し、現在はテナントとしてLOGI’Q習志野を利用している。
LOGI’Qの特徴である再エネ100%電力は、来春までに屋上に設置予定の太陽光パネルなどから供給され、この物流センターで利用できることになっている。山下さんは「グリーンエネルギーを使用できることは、環境に配慮した経営を目指す当社の理念に合致します。災害発生時に電力会社からの電力供給がストップした場合も利用できますので、BCPの観点でもメリットは大きいですね。太陽光パネルの設置が完了した際には、モニターを設置して発電状況を見える化する予定です。私たち自身の意識を高めるとともに、環境意識の高いお客様へのアピール材料にもなるのではないかと期待しています」と話している。
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東京アートで環境対策を担当する山下さん
他にも建て替えは同社に様々なメリットをもたらした。まず、垂直搬送機や貨物エレベーター、ドックレベラー(建物の搬出入口の床面とトラックの荷台とに生じる高低差をなくすための装置)の増設によって物流センターとしての機能が大幅にアップデートされて、業務効率が飛躍的に改善された。環境負荷軽減の観点から、施設内の照明はすべてLED電球に切り替えられており、消費電力の大幅な抑制にもつながっているという。
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LOGI‘Q習志野で働く東京アートの岩品さん
働く人々からは、大型ファンの設置やデザイン性に優れた休憩所が好評だという。岩品さんは「東急不動産からご提案をいただき、荷物の搬入・搬出を行う1階の作業スペースに大型ファンを設置したのですが、夏場の作業がずいぶん快適に行えるようになりました。建て替え前の施設では休憩所が狭く、時間帯によってはスタッフが溢れてしまうこともあったのですが、その問題は広くてお洒落な休憩所ができたことで解消されました。全体で60席あり、窓に向かうカウンター席が設けられているので『一人でもリラックスして過ごせる』とみんなに喜ばれていますよ」と変化を語る。
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大型ファンが設置された作業スペース
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広くて快適な空間に生まれ変わった休憩所
進化を加速させるべく「ブランド刷新」
LOGI’Qは発足から5年目を迎えた今年8月、ブランドリニューアルを発表した。これは、新型コロナウイルスのパンデミックや急激なデジタル化の加速、脱炭素社会の進展、生活スタイルの多様化などを踏まえて、「提供する施設自体も変化し、進化し続けなければならない」という思いから実施された。
ブランドコンセプトは、東急不動産ホールディングスの長期ビジョンスローガンである「WE ARE GREEN」に込められた思いを踏襲し、「NEXT GREEN LOGISTICS」と定められた。同時にブランドロゴも、従来の「4本柱」から、「未来への扉を開く」物流施設を表現する扉の形へと進化した。
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新しいブランドロゴ
さらに、新たなブランドコンセプトを具現化するフラッグシップ物件として、「LOGI'Q南茨木」を本着工している。同物件は交通利便性の良い恵まれた立地に建設される、延床面積約48,000坪の大型物流施設で、作業用空調やカフェテリアなども設置される。
もちろん「ReENEグリーンエネルギー」を活用しており、環境配慮の指標の一つである「CASBEE」最高ランクであるSランクと、同じく環境配慮の「ZEB認証」最高ランクである『ZEB』、および「BELS」の最高ランクである5スターを取得予定だという。
物流業界に新たな風を吹き込むLOGI’Q。今後の展開にも注目したい。
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LOGI‘Q南茨木(完成予想図)