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自然と共生する新時代のオフィスビル~東京ポートシティ竹芝~

  • # 生物多様性
  • # 緑と共生するオフィス
竹芝地区と東京ポートシティ竹芝

竹芝地区と東京ポートシティ竹芝

東京都港区竹芝地区の「東京ポートシティ竹芝」(2020年9月開業)は、ユニークな大型複合施設だ。飲食店やトイレの混雑状況がひと目で分かったり、オフィスフロアのエレベーターは顔認証で行き先階が自動設定されたり、センサーやAIカメラを駆使した、未来を先取りしたような「スマートビル」として注目されている。だが、それだけではない。2~6階南東側に階段状に広い「スキップテラス」が設けられ、豊かな自然環境が配置されている。米や野菜の無農薬栽培、養蜂などを行う「竹芝新八景」があり、これまでの都市部のビルには全くなかった里山的風景に、訪れる人は心癒やされるだろう。近くの浜離宮恩賜庭園、旧芝離宮恩賜庭園といった豊かな緑とも連動し、「生物多様性」の考え方を目に見える形で最新型オフィスビルに取り入れているのだ。

ビルの4階で米や野菜を収穫

地方都市での人口減が大きな社会問題となっている一方、東京都心部などの人口過密状態は続き、首都圏居住者は全人口の約3割を占めるまでになっている。こうした人口集中によって首都圏では市街地が拡大し、樹林の減少や農林業の衰退などで緑地が失われてきた。このため、樹林や農地などに生息していた動植物の種が、私たちが気づかないところでどんどん減少している。さらに温暖化によって適応する生物の種類にも変化が起きているほか、ペットなどとして輸入された外来生物が野生化して在来種を脅かすようにもなっている。こうした現象で「生物の多様性」が損なわれると、都市部の自然環境が悪化するだけではなく、国全体の生態系に影響を与える可能性もある。東急不動産ホールディングスグループは、生物多様性を重要な環境課題であるととらえ、さまざまな事業を通して積極的に生物多様性保全に取り組んでいる。その代表的な存在の一つが、豊かな自然環境を取り入れた東京ポートシティ竹芝だ。

三大都市圏および東京圏の人口が総人口に占める割合(総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告2022年結果」)

三大都市圏および東京圏の人口が総人口に占める割合(総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告2022年結果」)

東京ポートシティ竹芝 スキップテラス

東京ポートシティ竹芝 スキップテラス

竹芝新八景とは、「空・蜂・水田・菜園・香・水・島・雨」の8つの景からなる、里山的景観だ。このうち「水田の景」「菜園の景」「香の景」の3つが4階テラスにある。

「水田の景」は広さ145平方メートルの水田が設けられ、稲がいっぱいに植えられている。「田植えや稲刈りは、近隣の保育園児や入居しているテナント関係者、住居棟の住民たちが参加するイベントを行っている。イベント参加者からも、都会では土に直接触れる体験もあまりできないので、自然に触れあえる貴重な場として、楽しみながらご参加いただいています」と東急不動産・東京ポートシティ竹芝マネジメントオフィスの簗瀬理恵子さんは語る。また、無農薬栽培のため、アメンボやゲンゴロウなどの昆虫が水田に生息するようになったことにも驚かされたという。

田植えは入居しているテナント関係者や住居棟の住民たちが参加するイベントとして実施

田植えは入居しているテナント関係者や住居棟の住民たちが参加するイベントとして実施

野菜やフルーツを植えた「菜園の景」の収穫なども同様のイベントが開催されている。収穫したエディブルフラワーやきゅうり、ピーマン、トマト、なすなどは調理・試食するワークショップなどで光景や香りだけでなく「味」としても楽しんでもらうイベントが企画されている。「香の景」では、ミントやマジョラム、マロウ、ローズマリーなど、さまざまなハーブ類を栽培。四季おりおりの変化を楽しめる。こちらもビル内の飲食店で活用してもらったり、ハーブを使ったアロマ体験などのイベントを行ったり。これらの植栽を管理しているのが東急不動産ホールディングスの一員である株式会社石勝エクステリア。同社緑地管理部の張捷さん、大川紗映さんは「無農薬ですので、雑草がはえたり、虫に葉を食われたりする害は避けられませんが、ちょっとした変化も見逃さないよう注意し、自然の姿を保つようにしています」と話している。

収穫した野菜は、調理・試食するワークショップで活用

収穫した野菜は、調理・試食するワークショップで活用

香の景

香の景

蜜蜂、ハヤブサ…“緑の回廊”で生物多様性に貢献

5階にはミツバチの巣箱を置いた「蜂の景」がある。巣箱には計3万から4万匹ほどのミツバチがいて、昨年は蜂蜜が170㎏も採れた。竹芝のある港区では、街路樹の管理に農薬を使っていない。このため、ミツバチにとっては安全な“街の花畑”となっている。「蜂は上空を飛ぶため、地面を歩く人と動線は交錯しません。ですから実は養蜂は都心と相性が良いんです」と、かたばみ興業(鹿島建設系の造園会社)緑化造園本部担当部長の水野さえ子さん。周辺地域の植物の蜜を集めることで受粉を促す。そうして実がつくと、さまざまな虫や鳥が集まってくる。都心のミツバチは、生物多様性で重要な役割を担っている。

都心の生物多様性で重要な割を担う、蜂の景

都心の生物多様性で重要な割を担う、蜂の景

3階は「水の景」と「島の景」。「水の景」は小さな生態系を表現するアクアテラリウム(水中と陸地の水辺を一体的に作り、より自然に近い風景を再現した水槽)だ。水槽にはヤマトヌマエビ、シマドジョウ、ヨシノボリ、メダカなど主に多摩川中流域に住む日本在来の小さな魚やエビが元気に泳いでいる。この動物たちが出すフンなどは土壌中のバクテリアの働きで窒素化合物に変化し、植物に吸収される。自然界の窒素循環がここに表現されている。まさに動植物の密接なつながりを表した“小宇宙”がここにある。水野さんは「このアクアリウムを見て、小さな子どもたちにも、身近にあるきれいな景観を大事にしたい、と思ってもらいたい」と話している。

水の景

水の景

東京ポートシティ竹芝のすぐそばには、伊豆諸島、小笠原諸島へ向かうフェリーが発着する「竹芝客船ターミナル」がある。そうした島しょ地域の玄関口という立地にふさわしく、「島の景」には、伊豆諸島や小笠原諸島の産物である観葉植物などを壁面菜園として展示している。「高さ幅とも各4メートルの表と裏に、極楽鳥花やパッションフルーツなどの花やフルーツが植えられ、温暖多雨の伊豆諸島、亜熱帯の小笠原諸島の特徴的な植物を楽しめる場所となっています」と石勝エクステリアの小川隼人さんは説明してくれた。

島の景

島の景

1階南側にある「雨の景」は、雨水を一時的に貯留し、地下へ浸透させる「レインガーデン」だ。250平方メートルの区画に、さまざまな樹木が植えられており、くぼ地状の場所には、伊豆諸島・新島の特産である「抗火石」という火山岩の軽いしが敷き詰められている。この石のくぼ地に一時的に雨水が貯まり、徐々に浸透していく仕組みになっている。「貯まった水は石で濾過されます。地下には雨水の貯水槽もあります」と簗瀬さん。

地下にある800立方メートルの水槽のほか、テラスに盛られた土や植えられた植物の根によって600立方メートルの雨水を保つことができ、ビル全体で1400立方メートルの雨水を貯水できる。近年、異常気象による集中豪雨の多発で、都市部での洪水が相次いでいる。大量の雨水が一気に下水道に流れ込み、処理しきれずに道路にあふれてしまうためだ。東京ポートシティ竹芝は、そうした集中豪雨による雨水を一時的にためて道路の冠水などを防ぐという機能も備えており、ビル全体が“グリーンインフラ”とも言える存在となっている。東京ポートシティ竹芝はこうした取り組みが評価され、国土交通省の第1回グリーンインフラ大賞・都市空間部門の優秀賞を受賞した。

雨の景

雨の景

「空の景」は、5、8、10、12階の人の視線が届きにくい壁面に設置された巣箱。ハヤブサやチョウゲンボウなど猛禽類の営巣地が減少している中、都市部では猛禽類と人が共生できる環境の回復と調和が課題となっている。ハヤブサなどは産卵時期のみ崖や岩だなに巣を作る習性がある。都心部のビル壁面は、自然界での崖と似た環境にあることから、壁面にそうした猛禽類が巣を作れるように巣箱が設置されている。

人の視線が届きにくい壁面に設置された、空の景

人の視線が届きにくい壁面に設置された、空の景

簗瀬さんは、「竹芝はもともと埋め立て地で、緑の少ない地域でした。ですが、近くには緑豊かな浜離宮恩賜庭園、旧芝離宮恩賜庭園があります。この東京ポートシティ竹芝が加わることで、いわば、『緑の回廊(コリドー)』が縦にも横にも広がります。最近、ハヤブサの目撃情報も寄せられるようになりました。このビルだけでなく、周辺地域とつながり、エリア全体で生物多様性を取り戻すことに貢献したい」と話している。

これらのテラスは、海から潮風が吹き付けるほか、ビル風などの強風の影響も受ける事から、植物が生育しやすいよう、また利用者が安全にテラスを利用出来るように配慮して設計、植栽が行われた。

潮風の影響をできるだけ小さくするため、耐潮性の高い「タブノキ」「モチノキ」「アラカシ」などの常緑樹をテラス外周部に配置。その内側に、季節感の感じられるさまざまな落葉樹が植えられた。強風で倒れると危険な高木に関しては、風洞実験で各階のテラスの風圧を計測し、地下支柱やワイヤなどを使って、それぞれの樹種に合った転倒防止策をとっている。

浜離宮恩賜庭園と旧芝離宮恩賜庭園を東京ポートシティ竹芝がつなぎ、『緑の回廊(コリドー)』が広がる

浜離宮恩賜庭園と旧芝離宮恩賜庭園を東京ポートシティ竹芝がつなぎ、『緑の回廊(コリドー)』が広がる

緑を取り入れた理想の働き方

東京ポートシティ竹芝を開発・運営する東急不動産株式会社は、訪れた人や周辺住民に自然を楽しんでもらい、生物多様性への理解を深めてもらうだけでなく、緑で囲まれた環境で気持ちよく働く新しい働き方も含めた「GREEN WORK STYLE」を提案している。都心ではなかなか味わえない自然を身近に感じられるのがこのビル。緑豊かな環境で、ストレスが軽減され、健康的に働くことができる。また、働く人の作業効率アップや生産性向上、コミュニケーションの活性化などを引き出し、労働環境のさまざまな問題点を解決していくことを目指している。

防災的側面も無視できない。例えば、JR浜松町駅と竹芝方面を東西につなぐ全長約500メートルのバリアフリー歩行者デッキ。万が一、津波が起きた際には、内陸側に逃げるルートになるほか、救援物資が港に届いたときは、このデッキを使うことでスムーズに運搬できる。また、このビルには、約6300人が3日間過ごせる防災物資を完備しており、地域の防災拠点としての機能も備えている。

近年、屋上などを緑化したビルも増えてきている。ただ、この東京ポートシティ竹芝が他のビルと決定的に違っているのは、「里山的風景」を大胆に取り入れていることだ。緑の中で快適になれるだけでなく、積極的に自然と触れあい、田植えや収穫などに参加できる。ここを訪れた人に安らぎや癒やしを与えてくれるだけでなく、収穫イベントなどを通じて、心をつなぐことができる。

竹芝新八景は完成形ではないと思う。関係者や近隣住民たちの協力のもと、常に変化し続けることだろう。昆虫や鳥類など多様な生物が集まり、さらに自然が豊かに成長する。多様な生物と共生する、本来、日本の里山が伝統的に担っていた役割を都会に取り戻す大きな可能性が、ここにある。

JR浜松町駅と竹芝方面をつなぐ全長500メートルのバリアフリー歩行者デッキ

JR浜松町駅と竹芝方面をつなぐ全長500メートルのバリアフリー歩行者デッキ

竹芝 UBC
(Urban Biodiversity Center)の皆様

  • 梁瀬 理恵子
    東急不動産株式会社
    東京ポートシティ竹芝​
    マネジメントオフィス
    簗瀬​ 理恵子
  • 小川 隼人
    株式会社石勝エクステリア
    緑地管理部
    小川 隼人
  • 張 捷
    株式会社石勝エクステリア
    緑地管理部
    張 捷
  • 大川 紗映
    株式会社石勝エクステリア
    緑地管理部
    大川 紗映
  • 水野 さえ子
    かたばみ興業株式会社
    緑化造園本部
    水野 さえ子
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