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社外取締役座談会
2030年のあるべき姿に向けて、
強靭化フェーズへ
それぞれに専門分野を持ち、深い知見を有する社外取締役が、中期経営計画や長期ビジョンに対して、
どのような評価をし、期待と課題を感じているか、自由闊達な意見交換を行いました。
中期経営計画の評価財務目標を2年前倒しで達成
2030年に向けて強靭化フェーズへ
—将来のありたい姿として「GROUP VISION 2030」を掲げ、中期経営計画2025を事業構造改革の再構築フェーズと位置付け、取り組んできました。進捗をどう評価していますか?
貝阿彌
すべての始まりは、2022年3月の東急ハンズの株式譲渡でした。社外の立場である私でさえ思い入れのあった東急ハンズをグループ外に譲渡するということには、執行陣として身を切るような覚悟が必要だったはずです。これをやり切って、再構築を大きく前進させたことが、その後の事業展開に大きく作用しました。中期経営計画の財務目標を2年前倒しで達成できたことは、事業環境が良かっただけでなく、事業ポートフォリオの再構築を断行できたことが大きいと思います。
星野
貝阿彌さんの言う通りだと思います。私は、全事業を定性・定量の2つの軸で、客観的な共通の指標に基づき評価するアプローチから進めたことで、非常に納得の得やすい判断材料となり、思い切った整理につながったと思っています。また、グループ会社の機能や役割、働いてきた人の思いを踏まえて譲渡先を探していこうという執行側の思いは、我々も共有して、共に悩み、決断してきましたね。
これからは強靭化フェーズに移行しますが、前倒しの計画達成によって2030年までの期間にゆとりができ、多様な施策を打てるようになったのはアドバンテージです。
三浦
ハンズやオアシス、さらには東急プラザ銀座などを売却し、ポートフォリオの棚卸しを進められたことが、現在の成果につながったのは間違いありません。それを単純にコストや効率性の観点だけではなく、社員の労働条件などにもしっかり配慮し進めていた。個人的に、売り急いでしまうのではないか、社員の処遇はどうなるのかといささか心配もありましたが、そのあたりを相手方との交渉のなかで確実にクリアしていけたのは西川社長のリーダーシップが大きかったと評価しています。
定塚
そうですね。社員の労働条件や雇用継続への配慮という点は、取締役会でもしっかり説明がありましたし、スムーズに進んで良かったと思います。取締役会では、普段から事業ごとに状況やリスク、利益について説明があって、社外メンバーとしても把握しやすいですし、それが取締役会として変革を後押しできることにもつながっているのではないかと感じています。
貝阿彌
ハンズもオアシスも、事業の発展性とともに気持ちを理解し合える良い相手を見つけ出し、譲渡を決めるにあたって短い期間でしっかり交渉してきたことに感心しています。
次期中期経営計画に向けてリスクや事業機会を的確に捉え
グループの持つ強みを最大限活かしていく
—次期中期経営計画の検討~策定にあたって、注視すべき環境の変化やリスクはどのようなものでしょうか?
三浦
私の若い頃の企業経営における費用構造を振り返ると、借入金に対する金利など金融費用のウェイトは非常に大きく、とりわけ投資事業では注視すべきものでした。ゼロ金利政策の長期化で、金利ひいては金融コストに対する恐怖感が薄くなっていますが、不動産業では金利の重要性を改めて重く受け止めるべきところに来ていると思いますし、為替と金利格差が相互に関連しながら、事業環境や競合状況に影響をもたらす可能性があります。今は海外の投資能力と国内富裕層の成長によって不動産価格が高騰していますが、金利等の状況がどうなるか、加えて、所得格差の状況が今後の需要変化にどう結びつくか、といった点は大きなリスクとして見るべきでしょう。
貝阿彌
長期持続的な事業展開を考えれば、増加する富裕層を対象に事業収益拡大を図るだけでなく、中間層向けの事業も大切にすべきと考えています。社外取締役としてその点は申し上げていきたいですし、世間の人も当社グループに対してそれを求めているのではないかと思っています。
定塚
私の専門分野である人財の観点からは、すでに顕在化している人手不足のリスクが気がかりです。当社グループとしても、建築現場における人手不足等を要因とするコスト上昇の課題があります。DXを活用してできるだけ省力化を図り、あわせて必要な人財を確保するなどの対策を打っていくことが必要です。また、人手不足はコスト上昇だけではなく、事故や品質管理における不正にもつながりうる問題です。不動産や建設において、安全で適正なものづくりは基本中の基本です。非常に大きなリスクですから、必要な人財をしっかり確保してリスクを排除すべきだと思います。
星野
金融政策の変化のところでは、当然投資リスクも大きくなりますが、大変でもリスクをコントロールしていかなくてはなりません。当社のリスク管理体制は、システムとしては基盤ができていると思うので、経営としてチェックを続けていくのが何より大事だと思います。
リスク対応の観点では、経済面以外にも2つのことが挙げられます。1つ目は、レジリエンスを高めていかなければならないということ。気候変動や災害に対応することは不可欠です。2つ目は、コンプライアンスリスク。社員が困った時に、しっかりと声を上げられるように、また、声を上げた人の安全を確保できるように制度を整備し、風通しの良い職場環境をつくることです。トップからのメッセージを発信することも含めてしっかりと対応する必要があります。
貝阿彌
その点は非常に重要です。私の経験上、社内に生じた問題について、上層部にまで声が届かないとき、根底にはパワーハラスメントの問題があります。当社グループには、パワハラになりえる状況は少ないと思うものの、どんな職場でもパワハラは起こりうると考えなければいけません。社員が声を上げるのをためらえば、問題は深刻化します。同僚や上司に相談しやすい、心理的安全性が確保された環境を整えることが重要で、私たち社外取締役も、こうした環境づくりには目を光らせていきます。
—次期中期経営計画の重点テーマとして検討されている「国際的な都市間競争力の強化」についてどのように捉えていますか?
星野
次期中期経営計画は強靭化フェーズ、当社グループの強みや経営資源をいかに活かすかがカギで、広域渋谷圏の構築に向けて国際的な都市間競争力の強化というテーマ設定は非常に良いと思います。国際競争力を強化するために、渋谷で働くこと、遊ぶこと、暮らすことについて新しい価値を提示し、渋谷という場所を選んでもらえるようにしていく。そのためには、複合開発のノウハウや独自性ある施設づくり、エリアマネジメントなどの強みを活かしてカスタマーエクスペリエンス(CX)を高めていくことが大事です。広域渋谷圏ではIOWNの先行導入を行っていますが、個人レベルでのニーズをリアルタイムで把握し、参加型のまちづくりやエリアマネジメントに活用できます。今後さらに創意工夫をして渋谷の付加価値を高めていってほしいですね。
定塚
広域渋谷圏の優位性は、若いエネルギーに溢れていることだと思います。時代をリードしていくスタートアップ企業や、IT・デジタル関連企業が集まっています。当社グループはデジタル活用に注力していますので、多様な企業とコラボレーションして、渋谷からの発信力を強化できると考えています。また、渋谷は代々木公園をはじめ、都心にしては緑の多いエリアです。国内不動産業として初めて、TNFDレポート※を策定したことも含め、環境面での発信も強化しアピールを図ってほしいです。
自然関連財務情報開示タスクフォースによるレポート
—もう一つの重点テーマ「地域資源を活用した付加価値創出」についてはどうお考えですか?
貝阿彌
真っ先に「ニセコのまちづくり」が思い浮かびます。行政・地元企業・地域の方々とともにリゾート開発を進めており、地域活性化、社会貢献という意味でも良い事例です。このような取り組みをもっと他のエリアでも積み重ねていってほしいですね。
定塚
私もニセコにうかがいましたが、日本ではないような雰囲気が味わえ、リゾート施設と街が一体化して魅力を生み出している素晴らしい成功例だと思います。個人的に旅行が好きで、海外にもしばしば出かけます。例えばバリなどアジアのリゾートでは、その土地の料理や文化を体験できるカルチュラルエクスペリエンスが充実しています。日本のリゾートで見受けられる、施設だけ揃えて体験が少ないというケースにならないように、地域資源を引き出し、体験価値の提供に注力してほしい。そうすれば、訪問する人がより楽しめます。
星野
日本が直面し続けてきた東京一極集中という問題に対する回答としての分散型社会。これには各地域の自立が必要で、そのためには、ニセコの事例で言えば観光のような核となる産業があり、エネルギー循環や物流、地域経済など、周辺のシステムが構築される必要があります。つまり、エリアマネジメントが重要なのです。当社グループにはそのノウハウがあり、地域の活性化に参画するのは良い方向性だと思います。当社の事業ポートフォリオの分散という点でも、地域に着目していくのは非常に良いでしょう。
三浦
地域活性化では、行政や地域社会との関係を密に、他の企業との連携も強めていかなければなりません。そして、さまざまな地域が持つ独自の魅力に着目しながら、観光や地域保全などの観点でもつながりを持つ。この意識を持って、当社グループとしてやろうとすることと複合させれば発展していくと考えます。先ほど星野さんが、街づくりにおけるエリアマネジメントに触れていましたが、観光では県の単位を飛び越え、エリアという広い視点に着目し、面としての街づくりを広げていければ良いと思います。例えば東北四大祭りを回れるツアーなどがあるように、エリア全体の街おこしのために当社グループは何ができるか、どのような役割を担えるか、考えていくことが重要です。
2030年のあるべき姿に向けて長期的な経営方針と人財戦略を
結びつけた具体策を講じる
—長期ビジョン「GROUP VISION 2030」では、人財戦略も重視していますが、どのような取り組みが必要でしょうか?
定塚
人財戦略では「価値を創造する人づくり」「多様性と一体感のある組織づくり」「働きがいと働きやすさの向上」という3つの戦略を立てたことで、当社グループ内での方向性が明確になり、具体策の推進に一体感が出てきたと考えます。今後は、各事業会社の進捗状況をモニタリングすることが重要ですし、そのために必要な情報はもっと集めて共有してほしいところですね。
長期経営方針では、環境経営とDXを通じた独自性のある価値創造を行うことで収益を拡大していくことをめざしています。価値創造においては、新しいアイデア、革新を生み出すためにダイバーシティは不可欠です。強靭化フェーズに入る次期中期経営計画のためにも、ダイバーシティ推進はしっかりと取り組んでほしいと考えます。
三浦
当社グループには、多種多様な企業が存在します。当然、仕事の中身も違えば処遇も違い、ひとくくりにはできません。しかしながら、グループ全体で横串を通した採用制度があってもいいのではないかと思います。さらに言うと、新卒採用にしても対象学部を多様にし、募集職種も多様にする。あるいは女性活躍を念頭においた採用を実施するなど、採用の多様化をさらに進めていくべきだと考えます。今後は、プロフェッショナルとして活躍できる分野、スキルを持ちながら、ある程度ジェネラリストでもあるという人財が必要になってくると考えていますので、そういう人財を育成するためにも採用制度自体を見直すことも重要だと思います。
星野
現在、具体的な取り組みを通じて、組織横断的に社員の創意工夫を引き出していこうとしています。例えば「STEP」という社内ベンチャー制度を設け、イノベーティブな風土を醸成する取り組みを行っています。また、「サステナブル・アクション・アワード」という事業活動を通じた社会課題の解決事例を表彰する取り組みもあります。こうした取り組みを通じて、社員1人ひとりが、自分が為した仕事と、グループとしてお客さまに対して提供する価値を結びつけて、自分の仕事の意義を再認識できるようにしています。人財育成の観点で非常に良い取り組みだと思って見ています。
—最後に、社外取締役としての今後の抱負をお願いします。
定塚
人財の観点で申し上げますと、当社グループのLGBTQ+に対する取り組みは進んでいるので、社員にももっと浸透してほしいと思います。2024年に生え抜き女性監査役が初めて誕生しましたが、まだ1人目です。今後、社内で女性の方々がもっと活躍できるように、私にできる支援があれば何でもしたいですし、グループ各社の取り組みの進捗を拝見し、アドバイスをしていきたいと考えています。
星野
「誰もが自分らしく、いきいきと輝ける未来の実現」という民間企業ながらとても公的なスローガンを掲げているのが当社です。社会基盤を担う自負の表れと思っていますが、エリアマネジメントも含めて、その実現にはさまざまな分野の企業、あるいは行政との共創やアライアンスが必要です。行政官としての経験、多様な分野との関係構築におけるノウハウなどを活かしつつ、社外取締役として執行側をしっかりとモニタリングしていきたいです。
三浦
今後取り組むべき課題としては、ホールディングス制を採用している以上、人事施策の複線化は今以上に推進してもらいたい。ホールディングスが統括役となり、グループ会社の人事施策などをリードしていくことでシナジー効果が発揮でき、多様性溢れる組織につながると考えます。その意味で、グループの主要事業会社の方が持株会社のボードメンバーに入るのは非常に良いことだと思っています。経営層だけでなく、さらに下の層までグル ープ内の人事交流を広げていってほしいと思います。私自身の抱負としては、60年近く企業に籍をおいていますので、仕事上でたくさん失敗もしました。失敗や反省から得た経験をお伝えしながらお役に立てればと考えます。
貝阿彌
私も同感で、人事交流により多様なバックグラウンドを持つ人が集まった職場で自由闊達に意見を言えることが、新しい発想につながると思います。
私の専門分野である法務・コンプライアンスの観点で言えば、そういう職場づくりのためにも心理的安全性の確保に注力したいと思います。私は、企業が不祥事を起こした時に調査を行う第三者委員会にいくつか参画していますが、不祥事のあった企業では、管理職が現場の状況を把握しきれていないという傾向が見えます。他社のケースを反面教師として、管理職が率先して心理的安全性を守るように働きかけ、自由な意見交換やアイデアの発信ができる職場づくりを進められるよう、助言していきたいと考えています。
新任社外取締役メッセージ
東急不動産ホールディングスには、渋谷の再開発など、将来に向けた新たなまちづくりにチャレンジする企業という印象を持っています。今回社外取締役に就任して、環境対応や多様性尊重などの社会課題の解決に向けた積極的な挑戦と、不動産という長期レンジでの価値が求められるなかで持続的な成長をめざす姿勢に、改めて感銘を受けました。今後は、50年、100年先を見据えた東急不動産ホールディングス独自の企業価値向上の戦略を描き、それをひとつずつ実現されることを期待しています。
私はこれまで、安全性と嗜好性が求められる化粧品会社で、グローバルのステークホルダーの声に耳を傾けながら、それらの情報を企業活動に反映する仕組みづくりおよびガバナンスを担当してきました。こうした経験を通じて培った多様なステークホルダーの視点を反映させ、意思決定プロセスのさらなる強化に貢献したいと考えます。東急不動産ホールディングスの社会的責任の一翼を担い、持続可能な社会づくりに寄与していきます。