統合報告書

COMPANY INFORMATION

Letter to our stakeholders

社会の転換期に「攻め」の経営でプレミアムな価値を創出するグループへ

東急不動産ホールディングス株式会社
代表取締役社長

西川弘典

100年受け継がれる創業の精神「挑戦するDNA」

25年以上の歳月をかけて再開発事業に取り組んできた「Shibuya Sakura Stage」がまちびらきを迎え、渋谷に新たなにぎわいが生まれはじめました。この日を待ち望んだ多くの地権者の方々の想いを受け継ぎ、多彩なカルチャーが息づく渋谷・桜丘の街に、これから大きな花を咲かせていきます。

東急不動産ホールディングスの中核企業である東急不動産は、この渋谷の地に1953年に設立されました。初代会長の五島慶太は、設立披露の場で「渋谷駅附近に更に四、五箇所高層ビルデイングを建築致しまして、渋谷を中心とする地区の発展整備に資したい」と演説しています。「大いに事業を拡張して、国家的事業に進出したい」と語った当時の想いが、今まさに100年に一度といわれる渋谷再開発によって実現しようとしています。

私たちグループの原点は、1918年、渋沢栄一らを中心に設立された田園都市株式会社にあります。100年以上前に日本で初めて、英国発祥の「田園都市構想」を取り入れた田園調布のまちづくりを行い、都市生活者の住環境改善に大きく貢献しました。

以来、私たちは「挑戦するDNA」を創業の精神に掲げ、その時代が要請するさまざまな社会課題の解決に向けて、常に新しい事業やサービス開発に取り組んできました。

2024年4月に開業した東急プラザ原宿「ハラカド」も、その一例です。コロナ禍を経て商業施設の再定義に挑戦し、クリエイターの集客装置と位置づけました。にぎわいの場の新しいあり方に、来訪された多くのお客さまからご評価をいただいています。インフレ経済へと向かう社会の転換期に、こうした「攻め」の挑戦を続けられる組織風土をグループに根づかせ、選ばれ続ける強い企業へと成長していきます。

2年前倒しで目標を達成し、先を見据えた変革に挑む

営業利益の推移
営業利益の推移

2020年に社長就任後、コロナ禍のなかで長期ビジョン「GROUP VISION 2030」を発表し、グループスローガンに「WE ARE GREEN」を掲げて3年が経ちました。10カ年計画の長期経営方針は、順調に進捗しています。前半5年間に位置づけた再構築フェーズでは、ROEとEPSの向上を図るために、抜本的な事業構造改革に着手し、収益性・効率性の低いアセットや事業の譲渡・売却を断行しました。

いわば“外科手術”のような聖域なき改革が功を奏し、昨年度の業績は、売上高1兆1,030億円、営業利益1,202億円、当期純利益685億円となり、過去最高益を更新しました。

同時に、2025年度までの中期経営計画で目標としていたすべての財務指標を2年前倒しで達成し、ROEは9.6%まで改善しました。こうした好調な業績を踏まえ、後半5年間の強靭化フェーズを1年前倒して、来年度から新たな中期経営計画をスタートします。

過去最高益という成果は、自社での比較にすぎません。不動産業界全体に追い風が吹いており、高い業績を上げているのは同業他社も同じです。現状に甘んじることなく、事業を取り巻く環境変化を大局的な視点で捉えながら、グループ経営を率いていきます。

なかでも資本コストや株価を意識した経営を、私は重視しています。当社の株価は、2024年3月にBPSを上回り、PBRは1倍水準に回復しました。しかし、8月に入り株式マーケットの変調により、株価水準は大きく低下し、足元では再び1倍を下回りました。PBRは1倍が最低ラインであると認識しており、さらなるROEとPERの向上を図ります。稼ぐ力と効率性を高め、株主資本コストを上回るROEを継続して達成し、2030年度に10%以上とする目標をクリアしていきます。また、これまで以上に株主・投資家の皆さまからの期待に応える次期中期経営計画を策定し、PERを引き上げたいと考えています。

インフレ経済への転換期を、売上拡大のチャンスに

日本経済は今、歴史的な転換期を迎えています。日本銀行がマイナス金利政策を解除し、17年ぶりに利上げが行われました。不動産事業にとって金利上昇は逆風になりかねません。過去に身を切るような経営危機を味わった経験から、私は社内でこう断言しています。「事業が好調な時ほどリスクに備えよ」と。

一方、インフレ経済への転換は、事業構造改革を終えた当社グループにとって、コスト削減での利益確保から売上を高めて利益を生み出す環境へと大きくシフトできる機会と捉えています。

それぞれの事業が持つ強みと幅広い事業ウイングを活かして、グループ総合力を最大化する。そして、競争優位性のある価値を提供することで、お客さまから高い評価をいただく。今こそ、そうした成長サイクルを描き、社員一人ひとりが「挑戦するDNA」を十二分に発揮できる絶好のタイミングです。おもしろいと思えるアイデアを実現し、新しいことに果敢に挑戦する「攻め」の経営に舵を切り、グループを挙げて高い付加価値の創出を進めます。

産業・地域・環境で、プレミアムな価値を生み出す

私たちが強靭化フェーズでめざすのは、「強固で独自性のある事業ポートフォリオの構築」です。総合不動産管理を担う東急コミュニティーや売買仲介の東急リバブルのように、業界トップクラスの実績を持つ事業はもちろんのこと、特定のマーケットで勝てる事業を育て、他社が追随しにくい競争優位性を確立します。

さらに、それぞれの事業を掛け合わせることで、産業・地域・環境などの側面から他社にはない高い付加価値を生み出し、その独自性を「プレミアムな価値」として対価に変えていきます。産業育成や都市観光、地方創生、GX(グリーントランスフォーメーション)といった経済産業政策を好機と捉え、国家戦略と足並みを揃えながら地域課題や社会課題の解決につながる事業の芽を伸ばしていくことで、新たなコア事業の育成に取り組みます。

当社グループの幅広い事業領域は、その収益モデルの違いから、資産活用型と人財活用型に分けられます。同様に、都市と地方、不動産ビジネスと不動産以外のビジネスなど、多様な稼ぎ方の軸をつくることで、特定の領域や市況に左右されない、強靭なポートフォリオを構築していきます。

次期中期経営計画では、プレミアムな価値を生み出す重点テーマとして、「国際的な都市間競争力の強化」および「地域資源を活用した付加価値創出」を掲げます。前者は世界から見た国際都市・東京のブランド力向上、後者は観光立国と脱炭素社会の実現に寄与する取り組みです。それぞれのテーマを具現化する戦略について、具体的にお伝えします。

次期中期経営計画の重点テーマ

国際的な都市間競争力の強化経営資源を集中投下し、広域渋谷圏を真のホームグラウンドへ

広域渋谷圏の魅力は、世界から人が集まる場だということです。中心となる渋谷エリアのほか、恵比寿、代官山、表参道、原宿といった独自の文化を持つ街が隣り合い、その多様性が国内外から多くの観光客や企業を惹きつけています。

ウェルビーイングの実現を図ることがまちづくりの前提となった今、不動産業界には国際的な都市間競争力の強化に向けた取り組みが求められています。広域渋谷圏には、競争力の必須要素である「ヒト・モノ・カネ・情報」がすでに集まっていますが、当社グループがこれらの集積をさらに加速させていきます。

そのなかで私たちがめざすのは、グループの本拠地である渋谷を真のホームグラウンドにすることです。東急グループとの連携を図りながら、当社グループの経営資源を集中投下し、開発から管理運営、仲介までのバリューチェーンがエリア内でつながり高い付加価値を提供する。それによって、エリア価値と渋谷における私たちの存在感が高まり、事業機会が拡大し続ける場所になる。それが私の思い描く真のホームグラウンドです。

その実現のためには、産業育成と都市観光という、渋谷がもともと持つ魅力を磨いていくことが重要だと考えています。

産業育成については、すでに優秀なスタートアップ企業が自然発生的に集まる素地があります。さらに今後、世界に名だたる企業を輩出するスタートアップ・エコシステムを渋谷に構築していくうえで欠かせない要素が、産学連携です。たとえば、ボストンのような学術都市は、大学を中心に世界中から優れた人材が集まることで、街の経済を活性化させています。広域渋谷圏のまちづくりにおいても、大学や研究機関との連携を戦略的に組み込むことで、国際的な存在感を高めていきます。

政府は海外の有名大学と連携したイノベーション拠点「グローバル・スタートアップ・キャンパス」を目黒に設置し、スタートアップ振興を後押しする構想を描いています。当社グループにおいては、東急不動産がマサチューセッツ工科大学との連携プログラムで、社会実験やスタートアップとの共創をすでに行っており、こうした実績を渋谷のまちづくりにも活かせると考えています。

一方の都市観光でめざすのは、24時間眠らない「エンタテイメントシティSHIBUYA」の実現です。活発なナイトタイムエコノミーだけにとどまらない魅力の幅広さこそが、渋谷の個性です。その個性は、さまざまな属性の人々が交わることによって育まれてきたものだという考えのもと、「創造」「発信」「集積」が循環する環境づくりに力を入れています。

2024年4月に開業した東急プラザ原宿「ハラカド」

「ハラカド」の対面に位置する東急プラザ表参道「オモカド」

産業育成と都市観光のいずれにおいても、渋谷に集う人々をつなぎ、自然発生的・偶発的なコミュニケーションを生み出す仕掛けが重要です。私は、そうした有機的な営みが、地歴やムードなどを含むエリア固有のカルチャーを創出していると考えています。それに引き寄せられた人々がさらにカルチャーを磨き、エリアの個性を高めることで、新たな人を呼び込みます。この循環を生み出すうえで、デザインやアートなどのクリエイティブな分野はひとつの有効な仕掛けであり、新たな価値観を受け入れ、創造につなげる渋谷の特性との大きな親和性があります。

今年度からは広域渋谷圏戦略推進室を設置し、グループ横断でエリア価値を高め、事業機会の拡大へとつなげるための体制を強化しました。渋谷のまちづくりが、ハード中心から真のホームグラウンド化に向けたタウンマネジメントへと段階を進めるなかで、渋谷らしさの源となるクリエイティブなカルチャーづくりにも取り組んでいきます。

地域資源を活用した付加価値創出①自然資源を活かして再生可能エネルギーをコア事業へ

再生可能エネルギー事業については、グリーンエネルギーへの転換がカーボンニュートラルの実現に向けた世界的な潮流であり、日本のエネルギー政策の要である以上、今後も市場が拡大することは確実です。

当社グループは、2014年から再エネ事業に参画しています。国内不動産市場の影響を受けにくく、独自性の高い事業として力を入れ、現在の総事業数は日本で113カ所、発電能力は1.7GW(2024年6月末現在)と、国内トップクラスを誇ります。

事業地のステークホルダーとの地道な交渉や関係構築が必須となる再エネ事業は、私たちが不動産業で培ってきたノウハウが活かされる領域です。また再エネ事業では、広い土地や強い風が吹くなどの地域特性を持つエリアが事業地となりますが、そうした地域の多くは、過疎化や地域産業の縮小といった共通課題を抱えています。当社グループは、これらの地域課題の解決を図りながら、まちづくりと一体となった事業展開を行っています。

なかでも2019年から東急不動産が風力発電所を稼働させている北海道松前町では、自治体とまちづくりに関する連携協定を結び、大規模停電時に当社の再エネ発電施設から電力を供給する「地域マイクログリッド」の運用をはじめるなど、地域共生を図りながら事業を展開しています。

また、市場拡大が見込まれるデータセンター事業において、政府は再エネ電源の確保を促進しています。北海道でも行政主導でデータセンター誘致が進められているなかで、さらなる収益拡大を実現していきます。

再エネ事業は、ローカルを拠点としながら、グローバルなプレイヤーと同じ土俵に立つ事業です。そのスケールの大きさを伸びしろと捉え、今後もコア事業への育成を図っていきます。

地域資源を活用した付加価値創出②地域課題を解決する次世代型リゾートの実現へ

約60年前から別荘の開発・管理を開始した当社グループのリゾート事業は、ホテル運営やエリアの複合開発などで成長を続けてきました。現在では主力事業のひとつとなっており、コロナ禍以降のリゾートに対する内需と外需の増加によって、さらに利益を伸ばしています。政府は人口減少下における経済対策として、インバウンド需要を取り込んだ観光立国を掲げており、リゾートの開発から管理運営まで手がける私たちの事業機会が、より大きくなることは確実です。

当社グループのリゾート事業の強みは、地域と共生した事業展開により培ったノウハウと実績です。これらの蓄積をもとに新たな体験価値やエリア価値を創出していくことで、リゾート事業をこれまで以上に収益性の高いコア事業へと育成できると考えています。

京都や沖縄などインバウンド需要の大きいエリアを事業地とするなかでも、官民連携でアジアNo.1の国際リゾートづくりを展開してきた北海道・ニセコは、世界中から特に多くの人を呼び込んでいます。今後、ニセコがグローバルな競争に打ち勝っていくためには、現在の冬季を中心とした集客を、年間を通じたにぎわいへと広げていくことが重要です。これを実現することで、国境を超えた人の流れが継続的に生まれる次世代型リゾートという先進事例をつくり上げていきます。

環境プレミアムで選ばれる時代へ、先手を打ち続ける

2030年までの長期経営方針において、全社方針に掲げているのが「環境経営」と「DX」です。これらは当社グループの強みを最大化するための必須要素であると同時に、“稼ぐ力”に変えてこそ意味を持つものです。

環境経営では、「脱炭素社会」「循環型社会」「生物多様性」という重点課題に対して、それぞれの事業活動を通じた積極的な取り組みを行っています。環境先進企業としてのブランド力や独自性を高め、環境価値を当社グループならではの強みとして活かすことで、事業機会拡大と収益獲得の好循環の構築を図っています。

東急不動産は自社事業所および保有施設の使用電力を100%再エネに切り替え、2024年4月には国内の事業会社で初めて「RE100」の達成※1が認定されました。オフィス、商業施設、ホテルなど全204施設を再エネに切り替えることでCO2 排出量の大幅削減を実現し、当社施設の利用を通じた環境価値をお客さまに提供できていると考えています。

また、国際NGOのCDPが選定する気候変動対応の最高位Aリスト企業に2023年度まで3年連続で選ばれたほか、2024年4月の環境省「エコ・ファースト企業」※2に国内不動産業で初めて認定されるなど、国内外からの外部評価を多数獲得しており、名実ともに環境先進企業としての評価を確立しています。

今後、持続可能な社会の実現と当社グループの長期的な成長を両立していくために必要なのは、たとえば環境配慮型オフィスビルに価値を見出し、積極的に出資するような企業側の意識を世の中に根づかせることです。

私たちは環境価値が価格転嫁される社会の実現に向け、先手を打ち続けてきました。当社の環境への取り組みに対し、社会変化への対応を図る企業や自治体からのニーズは年々高まっており、JR東日本との包括的業務提携や再エネファンドの設立、横浜市や相模原市など地方自治体との脱炭素化の実現に関するパートナーシップの締結といった、新たな事業機会が創出されています。

また、個人の消費活動においては、若年層を中心にエシカル消費が広がってきています。サステナブル意識の高まりをさらに後押しするため、私たちは未来を担う世代に向けた環境教育活動を積極的に展開していきます。

※12050年までに事業で使用する電力の再エネ100%化にコミットする国際イニシアチブ。保有施設は、RE100の対象範囲とならない売却または取り壊し予定案件および東急不動産がエネルギー管理権限を有しない一部の共同事業案件を除外
また、使用電力はRE100が認めるグリーンガスが国内市場に存在しないため、コジェネレーション自家発電による電力を除く

※2環境の分野において「先進的、独自的でかつ業界をリードする事業活動」を行っている企業(業界における環境先進企業)であることを環境大臣が認定する制度

CX向上を加速させるため、DX人財を計画的に育成

DX推進については、最初のステップであるビジネスプロセスの省力化が一定の進捗を見せ、CX(カスタマーエクスペリエンス)の向上へと注力ポイントを移行しています。

2024年度からは、資産活用型ビジネスと人財活用型ビジネスのそれぞれにDXにおける重点課題と注力領域を設定することで、資産・人財が持つ価値の最大化による新たな収益モデルの構築へと取り組みを加速させています。

なかでも、人財活用型ビジネスにおけるDXは、当社グループの強みのひとつである豊富な顧客接点を活かし、グループの成長につなげるための要だと捉えています。労働人口の減少に伴う2030年問題が社会課題となるなか、デジタルにより労働集約型特有の負担を軽減し、リアルな人財ならではのサービスを高度化させていきます。

また、広域渋谷圏のエリア内においては、デジタルとリアルの魅力が融合したCX向上に取り組んでいます。世界のまちづくり分野で初の導入となる高速大容量通信技術「IOWN」と都市OSで構築した都市基盤の上に、不動産業界初のコミュニケーションアプリ「SHIBUYA MABLs」で回遊性を促進し、デジタルツインの活用や情報発信メディアの一元管理、エンタテイメントコンテンツの誘致などの仕掛けを施すことで、渋谷でしか得られない体験価値の創出を図っています。

こうした取り組みをさらに活発化させるため、私たちが力を入れているのがDX人財の育成です。ビジネス領域とデジタル領域をつなぐ人財を「ブリッジパーソン」と定め、計画的な育成にあたっています。昨年度からはDX人財育成の仕組みやマイルストーンを体系化して開示するとともに、デジタルによる業務課題の解決や未来のまちづくりを考える育成プログラムなどを実施しています。

力強い成長に欠かせない経営基盤と組織風土

「攻め」のグループ経営を行い、力強い成長で将来にわたって選ばれ続ける企業をめざすために、人財戦略、財務資本戦略、コーポレートガバナンス強化に取り組み、強固な経営基盤の構築を推進しています。

価値創造に必要なのは、社員一人ひとりの力です。当社グループでは、社員が持つ能力を「人的資本」と捉え、潜在力を最大限に引き出すためのさまざまな社内改革を進めています。経営戦略と連動とした「価値を創造する人づくり」「多様性と一体感のある組織づくり」「働きがいと働きやすさの向上」という3つの人財戦略では、各施策にKPIを掲げています。グループ各社の執行役員には、グループ連携の実践度をモニタリングする独自の指標を設け、経営層の意識向上に取り組むなど、幅広い人財の力をグループの成長へとつないでいく施策を展開しています。

財務資本戦略では、資産と負債・自己資本の健全なコントロールによって財務規律を維持しながら、事業ポートフォリオに基づいて競争優位性を意識した利益成長をめざすとともに、株主・投資家の皆さまへの安定的な還元を維持していきます。

ガバナンスについては、公平かつ透明性が高く、意思決定の迅速化に資する体制を構築し、実効的に機能させていくことへの課題に対して、社外取締役の増員や多様性確保、実効性評価における第三者評価の活用などを順次導入してきました。今後もサステナビリティの実現をめざす社会の一員としての責任を果たしながら、中長期的な企業価値の向上を図ります。

私たちは、「あらゆるステークホルダーの満足度の総和」が企業価値であると考えています。満足度を高めるうえでもっとも大きな力となるのが、「社会に向き合う使命感」を持った人財の存在であり、価値創造には人財を活かす組織風土が不可欠です。

また、人的資本経営だけではなく、今後もステークホルダーの皆さまとともに人権配慮や健康経営にも取り組み、持続可能な社会の構築に貢献していきます。

クリエイティブなカルチャーを、まちづくりにも組織にも

新たな人と価値観を受け入れながら常に更新されていく街こそが、持続的な成長を果たす。そう捉えると、私たちが手がけるまちづくりの考え方は、生物学によく似ていると感じます。生物学者の福岡伸一氏が提唱する「動的平衡」という概念では、あらゆる生命体は、細胞の分子レベルで新しく生まれ変わり続けることによって環境変化に耐え抜くレジリエンスを持ち、進化を遂げてきたとされています。街は生命体であり、まちづくりとは生命の営みといえるかもしれません。

私は経営もまた、動的平衡の考え方のように自然の摂理に沿うべきだと考えています。街にも組織にも、カルチャーを根づかせるには時間がかかります。多様性に満ちた広域渋谷圏では、新しいヒト・コト・モノを柔軟に受け入れ、次の時代をつくるクリエイティブなカルチャーを磨いていくことが大切です。まちづくりに関わるメンバーには、偶発的なコミュニケーションを意図的につくり出していく工夫をしてほしいと呼びかけています。

そして、当社グループにもまた、渋谷のまちづくりと同じように、異なる価値観や新しいものを受け入れるカルチャーを紡いでいきたいと考えています。私たちらしい組織風土とは、言い換えるなら「寛容さ」であり、「WE ARE GREEN」のグラデーションが表現する「誰もが自分らしく、いきいきと輝ける未来」への想いに通じます。

従業員一人ひとりが多彩な個性を認め合いながら、いきいきと働くことでこそ、魅力的なまちづくりに寄与できる。そうして社会のニーズと会社のビジョン、自らの幸福の実現をひとつの連なりとして捉え、働きがいや生きがいを当社グループで働くことの「プレミアムな価値」として全従業員に感じてもらえた時に、私たちのさらなる飛躍があると考えています。

今後も、約3万人のグループ従業員が歩みをともにできる組織風土改革に尽力し、ビジョンや経営計画については有言実行を貫くことで、「価値を創造し続ける企業グループ」をめざしていきます。

2024年3月31日終了年度(2024年8月公開)